第2話 恋に落ちた瞬間


 いつものように人混みに混ざりながら流れに乗って電車に乗る。


 今日はやたらつり革がぬるぬるするな。


 俺はカバンを足で挟み、ポッケからティッシュを取ろうと手を入れる。


 この一連の動作すら満員電車ではやりにくい。


 なんとかティッシュを取り出し、一瞬つり革を持った手を離す。


 何が付いてたんだこりゃ。


 匂ってみると甘ったるい匂いがした、朝から最悪だ。


 ティッシュで手を拭き、次につり革を拭こうとしたその瞬間電車がブレーキをかけた。


 やばい、油断してた!


 俺は手を拭くのに必死で駅に着くのに気付かなかった。


 足でカバンを挟んでいた為に揺れに耐えれず俺はよろめいてしまった。


 その時咄嗟に両手を広げた状態で隣にいた人に抱きついてしまった。


 相手が悪かった。


 俺が抱きついてしまったのは、派手な女子高生だった。



「ぎゃあああああああー!!」


 内心そんなに叫ばなくてもと思ったが、こちらはおじさん、相手は女子高生、逮捕案件だ。


 案の定、駅で他の乗客に引きずり下ろされ、警察を呼ばれる事に。



 つくづくついていないな。


 抵抗することもなく、連行され、事情聴取を受ける。



 疲れ果てたおじさんの表情を見て警察の人も少し同情したのだろう。


 今回は注意だけされて逮捕はされずに済んだ。


 女子高生も最初は驚いて叫んでしまい、周りが思ったよりも対応してくれた為、まさか警察まで来るとは思っていなかったようだった。



 女子高生は俺に一言謝りたいと言ってきた。


「すいませんでした、あの時はビックリして。でもすごく揺れましたもんね、電車」


 そう言って少し微笑む女子高生は、見た目は派手だが言葉遣いも丁寧で、優しくて、まるで天使のようだった。




 俺はその瞬間恋に落ちた。




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