第14話 リフレッシュ / 自転車通勤
自分自身をリフレッシュすることは「強靭で柔軟な心身作り」に役立つのでしょうか。
1999年7月の後半の月曜日の午前7時頃に 私は自分自身をリフレッシュするために 中断していた自転車通勤を再開しました。
4月の中頃に 朝の自転車通勤途中に交通事故に遭い 6月の終わり頃に退院した後 私は 勤め先の会社への通勤には 電車とバスを利用していました。
自宅から会社までの直線距離は 9キロメートル程で 通勤時間は 電車バスを利用した時も自転車を使った時でも 約40分間でした。
電車バス通勤をしていた私は 交通事故前の自転車通勤時には 感じた事の無い違和感を覚えていました。
その違和感は 日を追う毎に高まり 私にストレスとなって圧し掛かってくるようになりました。
私は この違和感がどこから来るのか 現状を分析することにしました。
違和感の原因の1つは 満員電車や満員バスの中にいることでした。
朝の通勤時に福岡市内方面に向かう電車やバスには どちらも多くの人達が乗り込んでいて ぎゅうぎゅう詰めになっていました。
電車やバスの進行中や停車時に 車体が揺れると 乗客も揺れ動くので 私は 周りの人達にぶつからないように つり革につかまる手に力を入れて 体の揺れを押さえました。
自分の周りに女性客がいたりすると もし ぶつかったら 彼女は床に倒れてしまうのではと思い 酷く緊張して つり革をもつ手にも力が入りました。
バスを降りて会社に辿りつくと 私は妙な緊張感から開放されるのと同時に酷く疲れを感じました。
違和感の原因の1つは 電車バス通勤が私の腰痛や膝痛に影響していることでした。
電車バス通勤時は 同じ姿勢で車内に立ったままの状態でいる時間が長くなりました。
私は 背中にバッグを背負って 両足を開いて立ち 右手はつり革につかまり 左手は右手の甲にあてがい 電車やバスの急な揺れに備えました。
左手を右手の甲にあてがうのは 急な揺れに対応するためだけではなく 揺れたときに 間違って周りに居る女性に触る事がないようにするためでもありました。
テレビでは 通勤電車の中で 痴漢の容疑で駅員に捕まり 会社を辞めることになった男性のニュースが報道されていたので 間違ってもそうならないように 両手は頭の上に上げておくことにしました。
しかし その通勤時のスタイルは 私の足腰の血流を悪くしていました。
満員電車バスの酸素濃度が低い環境の中で 息を潜めて 体を固定して立ち続けていることは 私の血液中の酸素濃度を低下させ 足に降りて行った血液の循環を悪くして 腰周りや膝周りの血行を悪くしました。
この様な満員電車バス内の状況は 私の足腰を弱らせ 頭の血の巡りを低下させ 妙な違和感を感じさせていました。
違和感の原因の1つは 交通事故の入院生活の経験から生じるものでした。
交通事故による70日間の入院生活は 私を それまでの日常社会から切り離していました。
病棟内に留まっていることに 私は 常に未来に向かって進んでいる社会から取り残されていると感じ また前に向かって進めないことに不安を感じていました。
入院時のそのような経験から 私は 立ち止まって電車やバスが来るのを待っていたり 車内で立ち止まっていることに 強いストレスを感じるようになっていました。
通勤時間に感じる違和感とストレスの現状と原因の分析を終えた私は 「強靭で柔軟な心身作り」のための対策を考えることにしました。
この頃 勤め先の会社は 市場のグローバル化による市場の製品価格の下落の影響を受けて 業績がじりじりと低下していました。
会社は 業績を改善しようと 業務の効率化を目指した方策を打ち出していました。
会社は 事業部の生産性を効率化するために 自社製品の生産工程の見直しや 関連業者との取引契約の見直しや 社員一人ひとりの業務の見直しを行いました。
会社は 業務の効率化を進めるに当り 社員一人ひとりの意識改革を求めて「自ら動いて 仕事に取組み 前に進もう!」というスローガンを掲げました。
私は「自ら動いて 前に進もう!」に触発され 自転車通勤を再開することにしました。
その日の朝に 私は 家の駐輪場から 自転車を引っ張り出すと 自転車にまたがり 以前にそうしていたように 左足で地面を蹴って 右足の太ももに 体重を掛けてペダルを踏み込みました。
ところが 電車バス通勤期間中に 足腰の筋力が衰えていたようで ペダルを踏む力が足りずに 自転車はふらつきました。
何とかバランスを保って 自転車を走らせましたが 最近使っていなかった左右の大腿四頭筋は まるで仕事をすることを忘れていたかの様でした。
私は 自身の両足に「自ら動いて 仕事に取組み 前に進もう!」と声を掛けました。
その声が届いたのか 暫く進むと 両足は踏む仕事を思い出したのか ペダルの回転もスムーズになり 自然に足を動かし続けるようになりました。
自転車を漕ぐ動きは 私の足腰を動かし それと共に私の心肺機能を高めました。
ペダルを踏む度に 両足のふくらはぎは 静脈中の血液を心臓に向かって押し上げ 心臓は血液を肺に送り 戻ってきた酸素たっぷりの血液を全身に送り出しました。
私は 血液の流れと共に 自身の体と頭が目覚めて機能していると感じました。
その感じは 自身の体と頭が殆ど機能せずに どんよりとした空気の中で半分眠っていた電車バス通勤時には無かったものでした。
自転車通勤途中に 線路沿いの道から離れて 川沿いの車の通りの少ない道に出ると 朝の涼しい風が 顔に当たりました。
私は 自ら体を動かして 前に進むことに 何とも言えない心地よさを散じました。
その心地よさは 交通事故に遭う前の自転車通勤時には 感じたことの無いものでした。
会社に着いた私は 全身が温まっていて 駐輪場から職場へ向かうビルの階段を上る時に 体が軽くなっているように感じました。
先週までは 会社に着いた時は 電車バスの冷房で 体が冷えていて 階段を上がる時には 体が重たい感じがしていました。
体が感じる重たさは 私の気分も重たいものにし 職場のメンバーへの朝の挨拶も 元気の無いものになっていました。
この日は 職場のメンバーと顔を合わせると 自然に笑顔で挨拶することができました。
この日の午前9時からの毎週定例の会議に参加した私は 先週までとは違う自分に気付きました。
前回の会議では 自身の体や頭は重たくなっていて 朝の会議にも関わらず 眠くなっていました。
今朝の会議では 自転車通勤によって高まった自身の代謝機能が持続されているようで 議事の内容に集中することができました。
私は 「自ら動いて 仕事に取組み 前に進もう!」というスローガンの真の意味が分ったような気がしました。
この日の勤めを終えた私は 会社の駐輪場へ向かいながら 開放感を感じ始めていました。
先週までは 仕事の終わり頃には 帰りのバスと電車の時間を気にし始めて それらの時間に追われるように仕事をしていました。
バタバタと仕事を片付けると 私は 会社を出てバス停へ急ぎ足で向かいましたが 私の気持ちにはゆとりがありませんでした。
今日は 仕事の終わりの時間を気にすることなく この日の仕事が片付いた後は 明日の仕事の段取りを確認して 職場を出ると ゆっくりと駐輪場へ歩く事ができました。
自宅へ向かう帰り道を 自転車で走ると 外気は冷えていて その中を走ると 仕事で発熱した頭をクールダウンさせることがました。
自転車を漕ぐことで 血流がよくなり 血液中の新しい酸素は 体の隅々まで行き渡り 仕事で緊張し疲れた体を 解してくれました。
家に着いた私は 今日の仕事のストレスから開放されて リフレッシュしていることに気付きました。
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