第7話 スポーツジム / 水泳
2002年8月頃 私の勤める会社では これまで「お客様サイドに軸足を置いた経営」を方針に 各事業部へ経営改善の取り組みを呼びかけていましたが その効果は見られていませんでした。
この間に それぞれの事業部は 顧客にアンケートを取り 自社製品の長所や短所を聞き取り 顧客の要望を調査しました。
顧客の要望は 様々で それらを網羅的に 製品に取り入れることは難しく また一部の顧客の要望を取り入れると 他の顧客の反発を買う結果になりました。
次に会社は「既存の事業領域に限らず 専門領域を超えた事業領域にチャレンジしよう!」と言う方針を打ち出し「押してもだめなら 引いてみよう!」と言うスローガンを掲げました
事業計画を達成するためには なりふり構わないという会社の態度は 私の「強靭で柔軟な心身作り」の取り組みに参考になりました。
私は これまで「足腰サイドに軸足を置いた強靭さと柔軟性の向上」をスローガンに 格闘技系エクササイズに取組みましたが それは 自身の足腰を痛める結果となっていました。
私は 会社の新方針を参考に 別のエクササイズにチャレンジすることにしました。
ある日の会社帰りに スポーツジムへ寄った私は ロッカールームで 水着に着替えると プールへ向かいました。
前室のシャワールームでシャワーを浴びて プールサイドに出ると 25メートル6コースの室内プールがあり そこには 20名程の会員が泳いだり 歩いたりしていました。
プールの端から2コースは ウォーキング専用コースになっていて 10名程が歩いていました。
私は プールサイドへ移動すると 暫くの間 屈伸や前屈などの準備運動を行って ウォーキング専用コースの1つに入りました。
25度C前後の水は 少し冷たく感じましたが 一度 頭まで水の中に沈めて 体を水温に慣れさせると 歩き始めました。
歩き出すと体に水の抵抗がかかり 抵抗に対抗するように前に進もうとすると 体の横を流れていく水に引っ張られました。
早く歩こうとすると 水の抵抗は大きくなり バランスを崩して 足を滑らせそうになりました。
水中ウォーキングは 格闘技系エクササイズに比べると 地味なものでしたが 水の浮力と抵抗により 私の足腰には負担が少なく その割りに運動量のあるエクササイズでした。
10分間程歩くと 体が暖まり水に慣れてきたので 私はウォーキング専用コースを出て スイミングコースに移りました。
泳ぎは得意ではありませんでしたが 子供の頃によく川に潜って遊んでいたので水に顔を漬けることに抵抗は無く なんとか25メートルを泳ぐことが出来きました。
平泳ぎで25メートルを泳ぐと 息が上がったので 足をついて顔を水から上げて呼吸を整えました。
次に25メートルをクロールで泳いで戻ると 息が上がり また暫く休みました。
同じ様にプールを4往復すると ひどく息が上がり疲れたので 私はプールから上がることにました。
プールから上がろうとすると 腕に力が入らず 体重が重たくなったような感じを受けました。
何とかプールサイドに上がると 疲労感と供に 体がふらつくのを感じました。
他のコースを見ると それぞれのコースに60歳代から70歳代の男女が泳いでいましたが 彼等は 疲れた様子も無く 泳ぎ続けていました。
彼等を見ながら 私は 格闘技系エクササイズを受けた時に 最初はひどく疲れたのに 2回目以降は 徐々に慣れていったことを思い出して プールに通うことにしました。
その日から 毎週1回 プールに通い 10分間のウォーキングとスイミングを続けました。
私は プールに来る度に 100メートルずつ 泳ぐ距離を伸ばしていきました。
プールに通い始めて2ヵ月半後に 私は ゆっくりしたペースで 25メートル毎に平泳ぎとクロールで泳ぎ 1キロメートルの距離を泳ぐことができるようになっていました。
しかし それは 連続した泳ぎではなく 50メートル毎に足をついて 小休止して 呼吸を整えながらの泳ぎでした。
息を整えながら 私は 泳ぎ続けられないのは 呼吸の仕方が良くないのでは と思いました。
水の上に顔を出した時に口から息を吸い 顔が水中にある時に鼻から息を吐いていましたが 息を吸う時に 肺に空気が入りにくい感じを受けていました。
どうしたものかと考えていた時に ふと エアロビクスのインストラクターのレッスン中の「息を吐いて! 吐いて!」と言う掛け声を思い出しました。
彼女はどうして「息を吸って!」ではなく「息を吐いて!」と言ったのだろかと思いました。
私は プールの中で 息を吸ったり吐いたりしてみると 息を吸うより 息を吐く方が やりやすいことに気付きました。
呼吸をするための胸筋の動きは 息を吸う時に広げる方向より 息を吐く時に収縮する方向の方が力が入りやすいと気付き それは筋肉が収縮する方向に力を発揮するからだと思いました。
水泳は 水圧が掛かる分だけ 呼吸しづらくなるので より息を吐く方に 注力することで 呼吸しやすくなるのだろうと思いました。
「吸ってもだめなら 吐いてみよう。」の考え方は 会社のスローガンの「押してもだめなら 引いてみよう!」を言葉通りに実践したものでした。
プールに通い始めて半年後に 私は ゆっくりしたペースで 25メートル毎に平泳ぎとクロールで泳ぎ 休むことなく2キロメートルまで泳ぐことができるようになっていました。
プールで泳ぐことに 私は これまでにない心地良さを感じていました。
心地良さを感じる理由の1つは 泳ぐことが 無理なく体を動かせることでした。
交通事故での入院中に 理学療養師から「足を動かさないと 動けなくなりますよ。」と言われて以来 私は 常に「体を動かさないといけない!」と言う 脅迫観念に付きまとわれていました。
体を動かすために ウエイトトレーニングやスタジオプログラムを実践してきましたが 思うような進展が得られずに その事は 私のストレスになっていました。
プールで無理なく体を動かせることは そのストレスを解消してくれているようでした。
心地良さを感じる理由の1つは 泳ぐことが 前に向かって進む動きだからでした。
会社での私の仕事は なかなかうまく行かず 前に進めない状況でした。
担当する新商品開発には 最新の研究設備が必要でしたが 単年度の収支改善を目指す会社は 高額の研究設備投資を渋っていました。
商品開発が前に進まないことは 私のストレスになっていました。
プールで自由に前に進むことができて 進む距離も少しずつ伸びていくことは「強靭で柔軟な心身作り」を目指す私に 前に進んでいることを実感させるものでした。
ある日 私は いつもの様に泳いだ後に プールサイドでストレッチを行いました。
10分間のストレッチを終わると 私は いつもと違って 体が軽くなり 全身の力が抜けて とてもリラックスできているような感じがして いい気分になりました。
自分の体に何か変化が起きていると感じた私は プールから上がると スポーツジムに設置されている血圧計で血圧を測ることにしました。
スポーツジムには 会員の健康管理のために いくつか血圧計が設置されていて トレーニング前後の血圧測定が推奨されていました。
血圧の測定結果は 75/60mmHg でした。
普段の私のトレーニング前の血圧は 125/90mmHg 前後でしたので 今までに見たことのない低い数値に驚いて 再度測定しましたが 同じ結果でした。
先ほどから感じていた 体が軽くなり全身の力が抜けた状態は 心臓が 軽く拍動するだけで 全身の隅々まで血液を送れる状態になっていることによるものでした。
その状態は ここ暫く 取組んできた 吐く息に注力した泳ぎ方と その後のストレッチによって得られたようでした。
水圧の掛かる中で 息を吐く力を身につけたことにより 肺の機能が高まって 水泳後のストレッチで 体を伸ばした時に 血液がスムーズに流れるようになったのだろうと思いました。
全身の力が抜けてリラックスしているのは 私の心臓の気持ちを感じているかのようでした。
ここのところ続く会社の経営不振に 責任者等から次々と繰り出される対策に 振り回されて 上司の厳しい仕事の進捗管理にドキドキしながら 休むことのできない私の心臓は 疲れていました。
そんな状況で 肺の機能を高めて 血液中の酸素濃度を高め 泳いだ後のストレッチにより 血液の流れがスムーズになった心臓は 仕事の負担が軽くなったようでした。
私の心臓は 「いやー! 仕事が楽になって助かるよー! 僕は休みたくても休めないからねー!」と言っているようでした。
スポーツジムのプールには 高齢者の常連客の会員さんが多くいて 彼等は 毎日の様にプールに通っていました。
水泳は スタジオのエアロビクスや格闘技系エクササイズに比べて マイペースでこなせて 足腰に強い負担を掛けずにできるので 高齢になってもできる運動でした。
彼等は 長く泳ぎ続けられる筋力と それを維持する心肺機能を確保していて 私の感じたような泳いだ後の爽快感を 日々感じているのだろうと思いました。
彼等が日々に感じる爽快感は 彼等の心身の状態をリセットして 毎日をよりよい状態に保つ事ができるのだろうと思われました。
私は 水泳を続けることは 「強靭で柔軟な心身作り」に役に立つものと確信しました。
プールに通い始めて1年後に 私は 毎週2回の水泳が習慣になっていました。
毎回約2キロメートルを マーペースで泳ぎ その後プールサイドで10分間のストレッチを行いました。
シャワーを浴びて ロッカールームで着替えると 心地よい疲労感と開放感を感じました。
ところが ある日 プールで泳いだ後に スポーツジムを出て 外に出る階段を下りていく時に よろけて段を踏み外しそうになりました。
以前に スタジオプログラムを受けていた時は そのような事は無かったので 私は 足の踏む力が衰えていると気付きました。
水泳は 無理なくできる運動でしたが 水の浮力を受けているせいか 重力に逆らって 自重を支える足腰の筋力や踏む力は低下しているようでした。
私は 足腰の強靭さと柔軟性を得るためには 何か新しい取り組みが必要だと感じました。
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