第6話 スポーツジム / 格闘技系エクササイズ
2002年2月のある日曜日の午前10時頃に 私は スポーツジムのスタジオの前にいて 次のスタジオプログラムの格闘技系エクササイズが始まるのを待っていました。
繰り返す腰痛と膝痛に悩まされ続ける私は その症状の改善に 格闘技系エクササイズが効果があるのかどうかを確認しようと考えていました。
格闘技系エクササイズは ボクシングや拳法等の動きからパンチやキックやステップやガード等の動作を取り入れたプログラムでした。
それは 30分から1時間のプログラムで 5分前後の曲に合わせた動きを1ブロックとして いろいろな動きのブロックを組み合わせたエクササイズでした。
格闘技系エクササイズには 片足を軸にして 他方の足を前後左右に蹴る動きや 足を前後に大きく開いて 前方へ大きく踏み込む動きがあり その様な動きは エアロビクスにはないものでした。
これまでスタジオの外から格闘技系エクササイズを見ていた私は その立ち位置や動きが 自身の足腰に強靭さと柔軟性を付与するものかどうか気になっていました。
一方で 格闘技系エクササイズは パンチやキックの動きと共に インストラクターの掛け声に合わせて「ヤー!」とか「おー!」と大声を出すことに 抵抗を感じていました。
この頃に 勤め先の会社は 円相場の急激な高騰により輸出関連事業の業績が低迷していました。
会社の責任者等は なんとか業績の悪化に歯止めを掛けようと 自社の立ち位置や行動方針を見直す動きを始めました。
彼等は 現状を打開するために新規ユーザー獲得を目標に上げました。
彼等は「新規ユーザーを獲得するために お客様サイドに立った経営を行う。」と言う方針を打ち出し「腰を低くしてお客様サイドに大きく軸足を踏み込もう!」というスローガンを掲げました。
会社の新方針は 従来の仕事のやり方では 業績改善が見込めないために 今後やるべきことを お客様サイドに立って考え 実行しようというものでした。
会社の経営方針は 「強靭で柔軟な心身作り」を目指す私の取り組みを再考させるものでした。
これまで私は 軸足を自分の中心に保って動くエアロビクスを行っていましたが 足腰の現状を打開するためには 足腰の立場に立ち 軸足を前に踏み込んだ 格闘技系エクササイズに取組むべきだと考えるようになりました。
この日 私は 45分間の格闘技系エクササイズに参加することにしました。
時間が来て スタジオの扉が開けられ 私は 20歳代から60歳代の男女のそれぞれ20名程と共に中に入りました。
後方の空いたスペースに入ると 私は 始まりの時間まで足腰を伸ばしながら 周りを見回しました。
格闘技系エクササイズの参加者は 事前にキックやパンチの練習をする人達も多く エアロビクスに比べると 参加者の気合と熱気が感じられました。
時間になると 30歳頃の男性インストラクターは「時間になりましたので格闘技系エクササイズ中級クラスを始めます。」と言うと CDプレイヤーでアップテンポの曲をかけました。
インストラクターは「はじめはウォーミングアップです。」と言って 幾つかのストレッチの動作と 基本的なパンチとキックの動作を繰り返しました。
ウォーミングアップの後に パンチのトラックや キックのトラックや 筋力トレーニングのトラックがあり その後 パンチとキックを組み合わせた まとめのトラックがあり 最後にストレッチのトラックがありました。
私は パンチのトラックが始まると直ぐに エアロビクスでは経験した事のない心拍数の急上昇を感じて 息が上がり 腕が張って重たくなり 動きが遅くなるのを感じました。
次のキックのトラックでも 動き始めると直ぐに 足が張って重たくなり 腰を落とす姿勢をとると 自重に耐える太ももが ぷるぷると震えだすのが分りました。
まとめのトラックでは 参加者たちの多くは 声を出して 全力で動いていましたが 私のパンチやキックは よれよれになっていて 声を出す元気もありませんでした。
最後のストレッチのトラックでは 息が荒れている中 簡単なストレッチが行われ インストラクターは「この後 お時間のある方は ストレッチルームで 十分に体を伸ばしてください。」とアドバイスしました。
私は ストレッチエリアに移動して そこで足腰を伸ばし始めました。
まだ息が上がったままの私は エクササイズでパンパンに張った足腰を伸ばそうとすると 節々に痛みを感じました。
それでも ここで伸ばさないと足腰が更に硬くなってしまうと思い がんばって伸ばそうとすると 体中から汗が噴出すのが分りました。
タオルで汗を拭きながら さらに伸ばしていくと 体が伸びていく感触を受けました。
格闘技系エクササイズの動きは 私の足腰を強く刺激していて 前屈や開脚を行うと 足周りや股関節周りが これまでより伸びていく感じがしました。
私は 格闘技系エクササイズは 強靭で柔軟な体作りに効果を発揮するかもしれないと思い しばらく続けてみようと思いました。
翌日の朝に目覚めた私は 起き上がろうとして 全身に激痛が走るのを感じました。
全身の筋肉痛と 元もとの腰痛と膝痛が合わさって 普通に起き上がることが出来ませんでした。
やっと起き上がった私は 普通には歩くことが出来ず 足腰の痛みをかばって 足を引きずる歩き方になっていました。
私は 格闘技系エクササイズが 強靭で柔軟な体作りに良いのか悪いのか 判らなくなりました。
2回目の格闘技系エクササイズでは まだ足腰に筋肉痛が残る中 レッスンを始めましたが 3曲目頃から 足腰の動きがよくなり 痛みを感じなくなりました。
レッスンが終わると 私は 前回と同様に 大汗をかき 息切れと 疲労感を感じましたが 同時に前回は感じられなかった爽快感も感じました。
その爽快感は レッスンの最後の方のまとめのトラックで 体力を消耗して 手足が重くなり 苦しい中で 声を出して 参加者と一丸となって 懸命にパンチやキックを繰り出していることから得られているように思われました。
その感覚は エアロビクスで感じた スタジオに流れる曲と自分の動きがシンクロすることで得られる心地よさとは異なるものでした。
レッスンでは 膝を深く曲げたり 股関節を大きく動かしたりしたためか レッスン終了後のストレッチでは 足腰がよく伸びるのを感じました。
格闘技系エクササイズを始めて 3ヵ月後に ストレッチをやっていた私は それまでと比べて 足腰の柔軟性が増してきたことを実感しました。
エクササイズで温まった足腰を伸ばしていくと これまでは あるところで体がロックして それ以上は伸びなかったのが 最近は 更に伸びるようになりました。
体を伸ばしていくと 股関節周りに痛みを生じましたが それでも これまで以上に伸びを感じられ 私は 自身の体に変化が起きていることがうれしくなりました。
それまでは 足腰の柔軟性は ストレッチによるコリの懐柔と 痛みからくる筋肉の収縮によるコリの発生とが繰り返され 1歩進んで1歩戻るような変化を示していました。
今回は 足腰の柔軟性は 2歩進んで1歩戻るように 少しずつ前に進む変化を示していました。
格闘技系エクササイズを始めて 半年後に 私の目指す 身体の強靭さと柔軟性を目指す取り組みに変化を感じていました。
60分間の格闘技系エクササイズを受けても ひどく息が上がったり疲れたりすることはなくなり強靭さを得ていた一方 レッスン後のストレッチでは 柔軟性がまして 開脚は 左右の足を前後に180度まで 左右に160度まで開けるようになっていました。
格闘技系エクササイズは キックのトラックで 片足で体重を支えたり ジャンプしたりする動きがあり それらの動きは 私の腰周りや膝周りの凝りを刺激し 動かしやすくする効果がありました。
一方で そのような激しい運動は 中年の私には 過負荷なものでした。
格闘技系エクササイズを続けていると 足腰の痛みは続き 更に左足ふくらはぎの肉離れによる痛みや 肩周りや背中に痛みを感じるようになりました。
格闘技系エクササイズのレッスン中は 体が温まっているせいか そのような痛みは気にならなかったのが 翌日になると 強い痛みを感じるようになりました。
それでも 格闘技系エクササイズを続けていると 私の足腰の痛みは 徐々に酷くなっていき 歩くときに足を引きずるようになりました。
ある日 私は スポーツジムのスタジオの前で 以前にお世話になっていたエアロビクスの女性のインストラクターに声を掛けました。
私は 彼女に 自身の足腰の痛みの状況を説明して どうしたらよいのか聞いてみました。
彼女は 私に「まっすぐ立ってみてください。」と言うと 私の周りを一回りして 足腰をみていました。
彼女は「両足の外側の筋力が強くて 足が外側に引っ張れれた状態になっています。足のつま先を内側に向けるようにして動くと楽になりますよ。」と言いました。
私は「エクササイズを中断した方が良いでしょうか。」と聞くと 彼女は「一度 中断して治すか 運動を続けながら治すか それは人それぞれですね。」と言いました。
私は 交通事故後の入院生活で 足腰の筋力が低下した経験から 一度 運動を中断してしまうと 元に戻すのが大変だと分っていたので 運動を続けようと思いました。
しかし 今のままでは かえって身体を痛めるので 何か別のやり方を考えないといけないと思いました。
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