第3話 金のカブトムシ現る

「ふあ〜あ」

いったい僕たちは、どれくらい寝ていたのだろうか。

「やっくん、やっくん」

広が呼ぶ声がする。

「どうした?」

「あれ!金のカブトムシと違うか?」

「うそ!どこどこ」

広が指差す先には、プラチナ黄金虫がいた。

「広、あれはカブトムシじゃないよ」

「えっ、あれ黄金虫か。。がっくしだな」

広が落ち込んでいる時、ふと脇に目を移すと人影らしきものが見えた。

「なあ、広、あそこ、人間?」

「ん?」

「ほら、あそこ」

「逃すもんか!」

広はまっすぐ人影に向かって走った。

その様子をまたもや遠くから伺う僕。

「うわっ」

広が回れ右して僕の方へ走って戻って来た。

「あれ、あれは人間とちゃうよ」

息を切らしながら広が言う。

「えっ、じゃあ何にさ」

ガオ〜

「頭がクマだったぞ」

ガオ〜

「ちょ、こっちに近づいてるって」

「逃げなきゃ!」

二人は、全速力で走り出した。

ガオ〜

後ろから唸り声が聞こえてくれるが、徐々に距離を離している。

どうやら、足の速さは、僕たちの方が上らしい。

「どうだ、もお巻いたか」

ガオ〜

「まだ微かに聞こえるよ、もう少し走ろう!」

「オッケ、あともう少しな」

「負けたみたいだよ、広」

「よかった、はあはあはあ」

広はもう息も絶え絶えだ。

「なあやっくん、飲み水を探そう」

「そうだね、喉がカラカラだ」

僕たちは、5分くらいそこで呼吸を整えてから、再び歩き出した。

「おい!あれ金色の!カブトムシじゃんか!」

「えっ!うそっ!ほんとだ」

今度は見間違いじゃない、本物だ。

だんだんと希望を失いかけていた僕たちに希望の光が差し込んだ。

「あっ!」

「行っちまったな。。」

「くそっ」

僕ま珍しく汚い言葉を使った。想像以上に苛立ってる。

「やっくん」

「なにっ?」

「ここからは、別行動だ」

「なんだって?」

「だから手分けしようって言ってんのよ。ここまで来たら、二手に分かれた方が見つけれる可能性を増やせるってことよ」

広もイラついているようだった。

「広の焦る気持ちは、わかるよ。僕だって本当はそうしたいよ。でも、手分けして、どっちか見つけることができたとして、どうやって再会するのさ。お互いに集合できず迷子になって悲劇的な最後を迎えるシナリオになるのがオチだよ!」

「いや、まあ、その」

広も困り果てていた。

「とにかく、地道に探そう」

「おう」

僕たちは、ひたすら長く伸びた草原の草を剣で切り払ってカブトムシを探した。

集中力が切れかけて来たちょうどその時、目の前に古木で作られた苔塗れの看板を見つけた。

「ん・・・」

よく見ると意味不明の言葉が書いてある。

『ぎ・な・ん・の森・づ・こ・の・な・ま・ず先・2きろ・なまず・まず※なまずがり』

「なんで最後のなまずがりに※がついてるんだ?」

「きっと読み解く上で重要なんだよ」

「そうか、見当もつかないな」

「あっ!」

僕は閃いた。

「なまずを狩ればいいんだよ」

「狩る?」

「なまずの三文字を消して読んでみるってこと。銀の森この先2キロってことだ」

「そうか!んじゃ行こう」

銀の森は、真夏だと言うのに随分と肌寒い場所だった。と言うよりも、雪が積ってしまっていて、肌寒いどころじゃ済まされない。

「うわあ、これは早く見つけないと凍え死んじゃうよ」

「そうだな、さっさと見つけないとこれはまずい」

ハックショーン

「あー、まじで寒い」

寒さでだんだんと眠気に襲われ始めた頃だった。

「うがっ」

広が倒れた。

「広!」

ゴン!

「うっ」

僕も意識を失った。

「ぐふふふ」

低い声が朦朧とする意識の中をこだました。


「う、うう」

なんだ、何があったんだ。意識がボヤボヤするぞ。

「やっくん、目が覚めたか?」

「広?あれ、どうして僕たち縛られてるんだ」

「あいつに聞いてみるしかないぜ」

「えっ?」

「ようやく目が覚めたようだな」

目の前には、熊。いや、下半身が人間で上半身が熊なんだ。泉で出くわしたやつだ。雪森で足音立てずに僕たちに近づいて、至近距離で気を失わせることができるってことは、相当侮れない。走る速さは、僕たちの方が上でも、この近さで、手足も縛られてるんじゃ、今は大人しくこいつの言うことを聞いて様子を見る方が絶対に得策だ。

「だ、誰なんだ」

「さてと、単刀直入に言うぞ。俺とゲームしろ。」

「ゲームだって?」

「そうだ、ゲームだ。」

「そんな、僕たちにはそんなことしている時間はないんですよ!」

「ふむ、俺の暇つぶしに付き合わないと言うのか。今置かれている自分たちの状況がよほどわかっていないようだな、ははは」

わかってるさ、どんだけヤバイ状態かなんて。相手はおそらく熊以上の身体能力がある。そんなパワーで戦われたら、ひとたまりものないだろう。

「僕たちは今、探し物をしていて、元いた世界に帰らなくちゃいけないんですよ!」

「今俺は腹が減ってる。鮭が食いてえ」

だめだ、全然聞く気がないよ。

「と言うことで、どっちがたくさん捕まえることができるかゲームをしよう。もちろん、負けても勝っても獲った魚は全て俺のもだ」

「そんなの、ずりいよ。俺たちにはなんのメリットもないなんて、不公平だ!このゲーム」

広が噛み付いた。

「まあそうだな、獲った獲物は、全てもらうが、その代わりお前たちの命の保障はしてやるよ。解放してやるってことだ」

「勝ったら!勝ったらどんなメリットがあるんですか。僕たちに」

僕も食いついた。命の保証が約束されたとわかったからだ。

「まあ、そうムキになるなって。お前らが万が一俺に勝つことができれば、この」

そう言うと熊人間は、金のカブトムシを見せてきた。いったいどこにしまっていたのか謎だ。だがそんなことはどうだっていい。

「よしきまりだ!このゲーム参加するよ」

「よし、そうと決まればゲーム会場へ直行だ、ついてこい!」

しばらくすると川のせせらぐ音が聞こえて来た。

「さあついたぞ」

「ここは、、」

そこは息を呑むほど美しい雄大な自然に包まれた川だった。

さっきまでの凍えるほどの寒さは、どこへやらだ。本当にこの世界は奇妙すぎる。

「ここでやんのかい?」

広が聞く。

「そうだ。この川でやる」

「俺たちはもう少し上流側でやるよ」

「始め!」

相変わらずこっちの話を聞かない熊だ。

ザブーンザブーン

熊人間は、川に飛び込むとあたり構わず長く強靭な爪を振り回した。どんどん爪先に引っ掛けて鮭を獲っている。これは、勝てるのか。。

「おい!なに眺めてんだよ!早く手伝ってくれよ!」

「あ、ごめん広」

僕たちは一生懸命に頑張った。ここの鮭はシーズンなのか、人間の速度でも本気を出し続けてさえいれば、捕獲はできるほどの群れだ。だがあの熊人間の捕獲ペースには、追いつけてない。二人がかりだが、向こうは3人力以上のパワーがありそうだ。

冷たい水を我慢しながら少しずつ鮭を捕まえていく。しかしだめだ、このままでは絶対にあの熊には勝てない。つまりは、元の世界に戻れないということだ。それはだめだ。

「広!ちょっと頑張ってて!」

「えっ、やっくん、おーい」

僕は広に頑張ってもらいつつ、川から上がった。森の入り口あたりで手の力で折れそうな枝を見つけて来た。

「広、これちょっと手伝って」

「どした!ん?」

「川辺の石でこの枝の先端を尖らせて、お手製のモリを作るんだよ!」

「それはナイスアイデアだやっくん!」

僕たちは、1分たりとも無駄にしないと言わんばかりの必死の形相をしながらお手製のモリをマッハで作った。

「よーし!いっちょ行きますか」

「うん。やったろ!」

ここから僕たちの猛反撃が始まった。

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