第2話 常識など通用しない世界

僕らは心を落ち着かせて屋敷の中に入った。

中は広く、そこそこ明るかった。

長い廊下があり、そこを歩いていくと前方に光るものが見えた。

廊下を突き進むとそこは大広間になっていて、その中央に何かが光っていた。

広が先にそれを確かめるために近づいた。

「おい!すげーよ、これ本物の剣じゃないか!」

「うそ!」

僕も駆けつけた。

そこには、傘立てのような台に4本の剣がキラキラと光を放ち、並んでいた。

1本は、先の長い剣。2本目は、短い。

3本目と4本目は同じ長さの普通な大きさの剣だ。

僕は、普通の剣を取った。広は、長いのだ。

「この剣、カッケーな。」

「う、うん。」

僕たちが周りを見渡すと、奥に謎めいた扉があることに気がついた。

普通の扉より二回りも大きい。

金と銀で縁取られていてとても豪華だ。

しかし、どこにもドアノブがない。

僕たちが扉に手が届きそうな距離に近づいた時、

扉は自然と開き始めた。

眩しい光を全身に浴びると共に、気がつけば僕らは気を失っていた。


「広!広!」

「んー、なんだあ。」

「ここ、どこだろうね。」

目を覚ますとそこは、生茂る森の中だった。

ジージージージー

アブラゼミの鳴く音だけが響いている。

僕たちは、立ち上がり辺りを見回した。

「俺たちの荷物がないぞ!」

「本当だ!」

僕は、広に言われて気づいた。

ただ、剣だけがそこにあった。

ブーン

何か遠くの方から黒い物体がこちらへ近づいてきている。

「何あれ、広、何あれ!」

「わかんないって」

「あれ、、ハチじゃないか!」

僕たちは、夢中で走った。でもどんどん距離が縮まっている。

僕は、腹を括って剣をハチの方向へと向け、立ち止まった。

「おい、もしややっくん、あれと戦うってのか?」

「そうだよ!その為の剣じゃないか」

「いやだってよ、剣なんかでハチなんかちっちゃい的すぎて、

戦いにならないって」

「そんなこと言ったって、いずれ追いつかれたら後ろから刺されてお終いじゃないか!」

「くそっ!やるしかないのか」

「うん!やってやろう」

「よしわかった!」

僕たちは、覚悟を決めて剣を構えた。

「きたぞやっくん」

ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ

剣が空気を切り裂きながらハチも裂く

だが、到底切りきれない。

このまま二人ともスタミナ切れで、結局ハチに刺されてお終いなのだろうか。

「やっくん、前に進め!このまま共倒れじゃ、なんの意味もない」

「でもそしたら広が!」

「いいから行けって!前進して解決の糸口を見つけてこい!」

「でもそれじゃ広が!」

「いいから行けって!一人でも生き残る選択をしろ!俺の方がスタミナはある!俺の方が時間を多く稼げる!わかるだろう!」

「くっ、必ず助けに戻るからね!!」

「おう!待ってるぜ!」

僕が後ろを向き逃げ出そうとした時、偶然目に入った紫色の落ち葉を見た。

無意識に直感的に僕は、その落ち葉を手に取った。

「臭い」

「なっ、何やってんだ、やっくん」

この落ち葉、強烈な刺激臭を放つ。ひょっとしたらあの虫たちの虫除けができるかも。

僕は夢中で剣に落ち葉のエキスを擦って塗った。

「だめだ、もう殺られる」

「これだ!」

僕は、刺激臭全開の剣をハチたちに振りかざした。

するとどうだろう、嘘みたいにハチたちはちりじりに周りへと逃げ散っていった。

「何がどうなってんだ、これ」

「やった、大成功だ」

「やっくん、どういうマジックだこれは?」

(5分後)

「そうか、そんな効能があったのか、この落ち葉には、それを発見したやっくんは、ファインプレーもいいとこだな!」

「はは、そうだね。結果二人とも助かって一安心だよ」

「そうだな!」

「よし、前に進もう、広」

「おうよ!」


しばらく歩くと小さな泉が目に入った。

バシャバシャバシャ

僕は、早速臭くなった手を勢いよく泉で洗った。

「ふ〜、やっとこの臭いから解放されたよ〜」

「そうだな」

ふと気がつくと、泉に泡が起きていた。

「おいやっくん、あれなんだ?」

「なんだ、ろうね」

「ちょっと近づいて見てみるよ」

「気をつけなよ」

僕は遠目で広を見守った。

広が剣先をあぶくに差し込んだ。

ズルズルズル

「うわっ」

剣がみるみる水面に吸い込まれてしまった。

ただ、剣の持つところだけを残して。

「これ、俺たちを水の中に引っ張り込むって魂胆かな」

「うん、だいぶ怪しいね」

「すぐに手を離すように気をつけながら引っ張ってみるよ」

「広、気をつけなよ」

「わかってるって」

広は恐る恐る持ちてを掴み引っ張り始めた。

「うわっ!」

広が叫んだ。

次の瞬間、剣が再び水中に引っ張られ始めた。

「やっくん!ヘルプ!」

二人がかりで全力で引っ張ると、少しずつだが抜け始めた。

ジャパンッ

やっとのことで引っこ抜けた。

「やったな」

「うん、やっと抜けたね」

僕はくたくたになった。

しかし、この世界は、休む時間をくれなかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

地震が起きた!

「誰だ!ワシの泉にいたずらをしているのは!」

「な、なんだ」

水の中から現れたのは、巨大なナマズだった。それも話すことのできるナマズ。

「なんだ、人間。こんなところで、迷い込んだのか?」

「そうなんです。僕たち、この世界から抜け出す方法を探してて」

「ほほう、お前らがとっとと元の世界に戻れば、この泉も平穏でいられる。だから、その術を教えてやりたい。だが、、知らんのだ」

「知らんのかい!」

「まあ、ほんとのとこならしばいてやったが、不便だから、今回は見逃しちゃる。さっさと立ち去るんだな」

そうしてナマズは、水中へと消えていった。本当に一瞬の出来事だった。

「なんだったんだ、今のは」

「ほんとね、なんだったんだか」

「ただ脅かされただけって感じだな」

「うん」

「なんか俺、眠くなってきたな」

「そんな、寝てる暇なんかないよ」

「んなこと言ったて、眠いもんは眠いさ」

「しょうがないな〜、ここはどっろぽいから、もう少し歩いてきれいなところで少し休もう」

「おう!そうしようか、やっくん」

僕たちは少し歩いた先の草原で束の間の睡眠を取ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る