金のカブトムシと銀のクワガタ

カンツェラー

第1話 始まりはいつも突然に

僕は、矢島勇男小学5年生。「やっくん」と呼ばれている。

「キーンコーンカーンコーン」

6時間目の終わりのチャイムが鳴っている。

今日は金曜日。

「やっくん!」

隣の隣の隣のまた隣に座っている川西広が僕を呼んだ。

僕は、広の方へ小走りで向かった。

小声で広が、

「明日、虫取りに行かねぇ?天狗森には、カブトムシとクワガタムシがざっくざくに採れるんだってよ!ふふふ。」

「いいよ!じゃあ、明日朝8時に僕の家な。」

「じゃあな!」

広が嬉しそうにランドセルを棚から取って机に戻って来た。

僕も帰る準備をして教室を出た。


僕は家に帰るなり、宿題をすぐやって、明日の準備に取り掛かった。

まずは、蜂蜜、虫かご、網、シャベル、鎌の用意。

土は柔らかい森のをいただく。

鎌は、気の硬い皮の下に隠れたクワガタを採るため、その皮を剥がすために必要なのだ。

そして朝7時に目覚まし時計をセットして、明日に向けてぐっすりと眠った。


翌日。

「ふあ〜あ。」

大きなあくびをして時計を見ると7時50分!

僕は、慌てて顔を洗って、母さんが昨日作ってくれたおにぎりを1個口に放り込み、残りの2個をリュックに入れた。歯ブラシをちゃちゃっとして、一息ついたとき。

「ピーンポーン。」

インターホンが鳴った。

僕の家は、天狗森からそんなに遠くない所にある2階建の一軒家。

僕は、慌てて荷物を取り、外に出た。

「おっす!」

「おっせーよ!早く行くぞ!」

僕は庭に置いてある薄い緑色の自転車に乗りながら門を出て、扉を強く閉めた。

「早くしろよ〜。」

広は、既に10メートル程先にいた。

「今行くよー。」

僕は、こぎまくって広に追いついた。

そして、天狗森に到着。

森の入り口に自転車を置き、ここからは歩きである。

意外と気味が悪い森だ。

そんなことは、気にも止めずに広は進んでいった。

僕は、慌ててついて行った。

しばらくして、広が声をあげた。

「おーい!」

僕は広に駆け寄った。

広は、歩きの部分を指差した。

そこをみて見ると、

「オオクワガタだ!」

僕は、思わず叫んだ。

「シーー!」

「あっ、失礼...」

広は、もう網を構えていた。

そして、、

「うおっしゃー!!」

広は、大きさ8センチ位の超大物を手に取り、虫かごに周りの木屑を2センチ位の厚さに敷き詰め、そのオオクワガタを入れた。

「やっくんもがんば〜。」

広は、得意げに言った。

「うん。」

僕は、結構負けず嫌いだ。

くそ〜、どこにいる。

僕たちはまた、探し始めた。

45分くらいたった頃、また広が大きな声を出した。

走って近づいて見ると、なんと目の前にハブがいた。

「うわっ!ハブだ!」

シューと音を出して威嚇している。

僕は、鳥肌が立った。

でも僕は、勇気を振り絞って網の先をハブに近づけた。

ハブが少し怯んだ隙に、僕たちは走って走って走りまくった。

ふと時計を見ると昼の12時。

しかし、あたりはまるで夕方の4時ぐらいの明るさ。

「おいやっくん、さっき僕たちが入って来た天狗森の入り口ってどっちだ?」

「えと、、迷子になったかな。」

「まじか。」

「なーんてね、携帯持って来てるよ。」

「やるじゃ〜ん。」

「。。。」

「どうした?」

「電波がないよ、ここ。」

「うっそ、参ったな。」

「とりあえず、腹ごしらえしようよ。」

僕は、リュックからおにぎりを出して食べ始めた。

「悪いけど、僕にもくれない?」

「全然構わないよ。」

「ありがとよ!」

しばらくして、

「そろそろ入り口を探さないとな、やっくん。」

「うん。」

それから僕たちは、2時間くらい歩き続けた。

「広、もう15時になりそうだよ。そろそろ抜け出さないと、本当にやばいかもしれないよ。」

「ほんとだな、困ったな。取り敢えず、一息つこうか。」

僕たちは、その場で少し休むことにした。

暫くすると、前の方から薄い光が差し込むのが見えた。

「広、太陽とは反対方向から、光が差し込んでるよ。」

「なんだ!あの光!」

「やっくん、なんかやな感じがするんだけど。」

するとその時、光の差し込む方に人影が見えた。

次の瞬間、老婆が僕たちの隣に現れた。

「何者じゃ、君たち。天狗村の外れで何してる?」

僕は、一瞬聞き間違いだと思った。

「んっと、天狗森には虫取りに来ました。」

広が答えた。

「はて、天狗森。さては、迷い込んだな。」

老婆は、表情を変えずに言った。

「迷い込んだって一体どういうこと、ですか?」

僕は、尋ねた。

「天狗森には2つの入り口があるんじゃ。1つは、君たちの世界。もう1つは、ここ天狗村。ちなみにこちらの時間は、そちらの時間の3倍で進んでおる。ざっくりとじゃがの。」

「えっ、どうやったら元いた世界に戻れるんですか?」

「わしが知っている方法は、ただ1つじゃ。金色のカブトムシと銀色のクワガタムシを捕まえて、この村の天狗様に渡す。そうすれば、元の世界にいける様に手を貸してくれる。」

そう言い残すと、老婆は、どこかへと立ち去っていった。

あまりに突拍子もないことで、暫く僕たちは、黙ってしまった。

「金のカブトムシに銀のクワガタ、そんでもってここが天狗森ではないだって。」

広が言った。

「ちょっと信じられないよね。」

「でもこのままでもいられないよな。探すだけ探さんといかんな。」

「そうだね、時間が進む速さが、3倍って言ってたから、こっちで6時になったら、元の世界では、日付が変わっているから、親がめっちゃ心配しちゃうね。」

「そしたら、怒られちゃうな。」

「それは、勘弁だよね。」

「よっし!いっちょ探しに行きますか!」

「うん!」

かれこれ30分位歩いたけど、一向に見当たらない。

そんな時だ、突然目の前に大きな洋風の屋敷が目に入った。

「おいやっくん、中を覗いて見ない?」

「うん、もしかしたら別の帰り方を知っている人がいるかもしれない。」

扉の周辺には、呼び鈴らしきものは、見つからなかった。

「誰もいないんかな?」

そう言うと、広は扉を開けようとした。

「ちょっと広、それはまずいって。」

「まずいも何も、このままだと本当に帰れなくなるかもしれないんだ。いちいち気にしてられないよ。」

そして、鍵がかかっていなかった屋敷の中へと足を踏み入れた。

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