四十六日目 二人だけの日々を夢見て
深夜、今は自宅には俺しかしない。
空気感や弱っている精神状態に考えを左右されたくないと悠には一度帰ってもらい、明日も変わらず仕事があるが惜しまずにこれまでのことを振り返る。
初めて悠と出会った日。彼女はすでに嘘で塗り固められていた。
まるで捨てられた子供ように瞳を潤わせ、わなわなと身を震わせて俺の人情に訴えかけてきていたんだ。
当然のように俺が悠のことを心配し、家にあげるはずだったところ。姉である俺の会社の先輩から隔週二日休暇ということは聞いていたであろうことで、翌日も仕事があるからという最も可能性の高い断られ方を避けていただけにまさか渋られるとは思っていなかったかも。
まるで話の展開がちぐはぐだったのも多少は演技だったのだろうが、すんなりとはいかなそうな流れに焦ってしまった部分も含まれていただろうな。
「思い返してみたら、先輩があのとき気持ち悪くなって帰っていなかった場合、あそこで先輩と悠が鉢合わせ、彼女の嘘全てが初めから崩壊していた可能性だってあったわけだ」
時系列をまとめるため、メモ帳に書きながらぽつりと呟いてみる。特に誰かがそうだねと共感してくれるわけでもないが、口にすることでしっかり記憶に印象付けておく。
それより、そうならなかったということは運が悠の味方をしたというわけか。
そこからとりあえず、家にあげたんだっけ。いろいろと話はしたけど、俺がお隣さんのことを質問して答えてもらうことはあったのに交流の深いはずである悠から積極的に情報を見せてくれることはなかった。
「スマホの通知が鳴ってお隣さんからのものでなかったことに対して、大した感情の変化が見れらなかったのも、帰り際、お隣さんの部屋のインターホンを最終確認として押した音が聞こえてこなかったのも、本来の目的ではなかったからだと思うと今更ながら違和感は散りばめられていたわけだ」
あの日以降の行動は前にも考えてみたが、諸々の根源である嘘を守り抜くためのことであるから突き詰めても意味なし。
優梨愛を使ったのもその一環だったしな。まあ、利用された側が恩義を感じて協力という形でいたから使ったという表現は違うか。ただ、誤算だったのは優梨愛がしっかりものの裏で嘘をつくのがあまりにも下手だったこと。人としてはああいう容姿端麗で生徒会長を務めるほどの人望の厚さを持つのにポンコツというギャップに萌えるんだろうけど、悠からすればただただ計画を崩していく存在になってしまっていたことだろう。
「はぁ……まあ、そのおかげで悠の嘘にはっきりと確信を持てたわけだけど、一緒に住みたいって言われるとはな……」
それが願いというのであれば、やっぱり嘘は先輩に向けたものなんじゃないのか?
俺は嫉妬による欲求の解消のため、俺との交流を図ったと考えていた。そのために疑われないよう出会い、意味のない領収書で事実を見せることでその他の嘘に気付かせず、無事仲を深めることに成功。結果として信頼から生まれた要望で彼女自身も心に余裕が出来始めた段階でまさかの身バレ。
そうして全てを失いかけたところでの俺の提案は悠にとっても都合の良いものだったのではないだろうか。ただ、それがまさか共同生活に繋がるとは誰も考え付かなかったと思うけど。
「一応、俺の希望とした悠のことを深く知っていくことと悠の叶えたいこととして挙げた俺との共同生活は成果を求めるという意味合いでは、見事にマッチしているのが断る理由が浮かばない難点でもあるんだよなぁ」
今日は酒を飲んだわけでもないのに独り言がついつい出てしまう。考え事をしているとたまにあるんだよな、MINEの返事を打っているときにぶつぶつ言っちゃうあの感じ。と、そんなことは置いといて、マッチしているからこそ断ろうとも思えない。
もちろん意図的に嘘をついていたとはいえ、それが全体的に俺に害を及ぼすものだったかと問われれば現状そうでもなくて、まあ早くから先輩の妹さんだとわかっていたらスパイ活動的な役割を担ってもらえるか交渉はしていたかもしれないけれど、それを嫌ったからこそ身分を隠していたわけで。
「悩んでても仕方ないかぁ」
MINEの画面を開いたり、落としたり。ただ時間が過ぎていく。
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