三十八日目 お楽しみはこれからです
どうやら優梨愛ちゃんは今、悠里と一緒にいるようで先輩が部屋で着替えている間に電話をかけたら出てくれた。そういえば、先輩が妹さんは今日大学終わりに先輩さんと遊ぶって言ってたような。いやでも、優梨愛ちゃんは二十歳で妹さんは今年から大学生だったはずだし。
「どうしました、お兄さん」
「いやー、ちょっと声が聞きたくなってさ」
「えっ、急すぎません? 今からお兄さんの家行きましょうか?」
急なのはお互い様だよ。
たしかに俺の適当な理由付けに対して家に来るって発想が凄い。声に活気が溢れだしたところから冗談で言っているようには聞こえなかったのがなおのこと。
「ごめんごめん、冗談で言っただけだから」
「ああ……そうですか。そうですよね。それで本当に急にどうされたんですか? また悩み事ですか?」
「ううん、今回はそういうのじゃなくて聞きたいことが出来たからって感じ。時間があまりないからパッと答えてもらえると助かるんだけど」
「全然大丈夫ですよ。それでなんです?」
さあ、ここで確信を得ることを聞いてみても構わない。ただ、なんだか優梨愛ちゃんに俺が何かしらに気付き、真実を知ったと思われるのは良くないと思う。そんな気がした。だから、すこし浅いところを掠めるように聞いていこう。
「ちょうど今、休憩中でさ、外に大学生っぽい子達がいて優梨愛のことが頭に浮かんでかけたわけなんだけど、今は大学の授業中?」
「いえ、今日は早く終わって悠里先輩とこれからお出かけするところですよ。お兄さんも来ます?」
「もちろん仕事を投げ出せたらすぐにでも向かうんだけどね。じゃあ、お邪魔するのも悪いから今日のところは切るよ」
「
先輩からのお呼び出しだ。これはお部屋に合法的に入ることができるチャンスでは? 尚更早く優梨愛ちゃんとの通話を切らなければ。
「ちょっと待ってください。お兄さん、今、会社にいらっしゃるんですか?」
「ん? あー、うん。そう。もしかして今の声聞こえた?」
この展開は望ましくないが、もし聞こえていたなら仕方ないで済ませるしかないだろう。
「はい。なにか頼まれていたみたいですから、どうぞ行ってあげてください。それじゃあ、また」
「またね」
よしっ、これでOK。
俺のなかで妹さんと優梨愛ちゃんの関係性は限りなく高くなったけれど、それを先輩に話すのは違うし、今日終えたら優梨愛ちゃんにしっかり話を聞いてみよう。まあ、なにかしら悪い方向に向くことはないと思うから、焦らずにね。
先輩との関係性を知られることで優梨愛ちゃんが不利を受けるとすれば、お隣さんとの関係を深く知られたくないという可能性だ。故に俺がいろいろばらすのは話が違う。
この話は一旦ここでスパッと切って、先輩との時間に意識を切り替えようじゃないか。
「先輩、どうしました?」
一応部屋の扉の前から話しかける。勝手に開くのはご法度。
「さっき言った会社から貰ったおもちゃを運びたいから手を貸して欲しいの。部屋の扉開けていいから」
「わかりました。それじゃあ、失礼します」
ガチャリと押して開けた先で目に入ってきたのは当然先輩のプライベート空間。
ただ、真っ直ぐの視界には先輩の姿はなく、化粧台やらみっちり詰められた本棚やらがあるだけ。すると、右手側からガサゴソと音が聞こえてきた。どうやらそちら側に押入れがあるみたいだ。
「先輩、来ましたよ」
すこしなかに入って先輩の後ろに立つ。先輩の部屋着姿だ!
シンプルなルームウェアの上下セットっぽい感じ。オフホワイトのカラーもシンプルでなんとも先輩らしいというか、あんまりこういうのに興味なさそうだもんな。
大人っぽいカーディガン系統とか可愛らしいキャミソールとか、そういうのだったら俺の理性が爆発していたかもしれないと考えたらこれで正解だったかも。いやー、でも見たかったなぁ。優梨愛ちゃんがシンプルながらも隙を感じさせるようなものだったから……いやいや、優梨愛ちゃんを例えに出すのは失礼か。
「はい、じゃあ、これお願い」
俺が煩悩にしっかり取りつかれていた間に先輩は真面目に俺のことを思っておもちゃの箱をいくつか取り出してくれていたみたい。凄く恥ずかしいよ。
その内の三つを先輩から受け取り、重ねて部屋から出ていく。押入れから振り返ったときにマットレスのベッドとその上に置かれたなにかのキャラクターらしきぬいぐるみが見えたのは収穫だった。しっかり可愛い要素、持ち合わせてます。
それからテーブルに運び終え、先輩も二つ持ってきて計五つものおもちゃがテーブル上に並ぶ。
さて、ここからは仕事の脳に行き替えて話を進めていこう。とはいっても、先輩の部屋着になんだかんだ目を取られて初めは集中できないだろうけど。
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