十四日目 本性を垣間見せる彼女さん
いやいやいや……えっ? 今俺の目の前にいる現役JDの優梨愛ちゃんが俺の家に泊まって今週末の試合観戦に臨みたいって言ったの? 知らず知らずのうちに膨れ上がっていた俺の妄想ではなくて?
「あー、それだとさすがにお隣さんにバレたら怖いっていうか、たとえ話しておいたとしても後で何が起こるかわからないっていうか」
一応彼女さんなんだよね? いや、ここは疑っても仕方ないか。以前、お隣さんに優梨愛ちゃんのことを話した時の反応から見ても間違いなさそうだったから。
その上で苦笑を浮かべるしかない俺とは対照的に表情の明るい彼女は頼んできたと。全く頭から?が消えてくれないんだけど。
「大丈夫ですよ。未鷹くんはそこまで深くは気にしない性格ですし、そもそも未鷹くん自体が私を放っておいて他の女の子と遊ぶようなクズですし、咎められる筋合いないってもんですよ」
「あ、あはは……」
平然と言ってのけるなんて凄い強気なんだなー、この子は。言っていることに間違いがないのもたしかだ。
「今回は初めての反抗ってことで私もお兄さんと浮気しちゃおうかなー、なんて」
「俺なんかが相手として務まるかな」
「どうでしょうねー、ふふっ。とまあ、冗談はこれぐらいにしてやっぱりお邪魔ですか?」
「うーん、邪魔っていうわけじゃないんだけどさ……」
ここ数日、先輩のことでストレスが溜まってるなかでこの子と二人きりは色々まずいというのが話せない実情。
自制心は強く持っていると思いたいけど人間どこでリミッターが外れてしまうかわからないからなぁ。毎日ニュースを見ていたら幼児に手を出す変態もいれば、恋人をメッタ刺しにするような狂人もいる。そういう人になり得る可能性は誰にでもあるわけで、だから信号無視も平気で行うようになっていく。
怖いよ、俺。内に秘められていた闇の部分が出てきちゃうの。
「お隣さんの家で泊まるっていうのはバレたときまずいもんね」
「ですです! だからお兄さんにお願いしたいんですよ。本当のところをお話しすると、方向音痴で地図と一緒にぐるぐるしちゃう人間なので初めて行くところが苦手でして……」
あー、なるほど。そんな理由があったんだ。それなら仕方ないか。うん、仕方ない。
それに恥ずかしがる優梨愛ちゃんの反応が可愛い。
「わかった。せっかくの楽しみが遅れてしまったせいで半減してしまうのも可哀想だし、初回だから思う存分堪能して欲しいし、おいで」
「本当ですか⁉ えっ、凄く嬉しいです! それじゃあ、当日未鷹くんに見つからないよう友達にお願いして連れ出してもらいますね」
「そこまで徹底してやるんだね」
嬉々とした表情のまま、またエグイことしてるなー。
さすがは未鷹くんの彼女って感じだわ。むしろ、未鷹くんは優梨愛ちゃんに動かされて女癖がついたんじゃないかと思わされるぐらい行動力に長けている。
すぐにバッグから青のケースのスマホを取り出して、誰かに連絡を入れ始めたみたいだ。フリック操作が早くて羨ましい。俺ももっとPC入力を早くできればすこしは会社で役に立てるのに。
今度タイピングのアプリいれて練習しようかな。
「よしっ、OKもらえたんで当日お願いしますね」
「返信もう来たの?」
「はい。ほらっ、どうぞ」
優梨愛ちゃんは疑われたらすぐ証拠を提示する癖があるのか今回も例に違わずスマホの画面を見せてきた。そこにはさーやという子とのやり取りが映しだされていて言った通りすぐに返事がきている……ん? このさーやってもしかして先週お隣さんの家に泊まっていた沙耶ちゃんのことか? もしそうだとしたらしっかり彼に弊害が出ているじゃないか。
まあ、さすがにバラすわけにはいかないから黙っておくけれど、行き過ぎたときには口を挟んでみるのもいいかもね。
「ありがとう。それじゃあ、当日はお隣さんがいないならタクシーに乗っておいで。あとでお金は俺が渡すから」
「いえいえ、お邪魔する身なのにそこまでしてもらうのはさすがに気が引けますよ」
「いいって、いいって。ここは社会人に奢らせとけばいいんだよ。あと、せっかくだからお弁当のお返しに手料理も振る舞おうかな。荷物を先に運んでその後一緒に近くのスーパーにでも行かない?」
「お兄さん、未鷹くんがいないのわかってから凄く楽しそうに当日の計画立てますね」
「そういうのじゃないよ。ただ何事も楽しい方がいいじゃんね。デイゲームとはいえそこまで早く家を出るわけじゃないからゆっくりご飯でも食べたいなって思ってさ。ダメだった?」
俺の問いに小さく首を横に振って答えてくれる。
「むしろ嬉しいです。前に来たときお料理なされるって話を聞いて一度は食べてみたいなーと。なんだか前夜祭みたいでいいじゃないですか。未鷹くんいないからちょっとは騒げますし」
「そうだね。下の階は元々空いてるから気にする必要はないかな」
「久しぶりにワクワクしちゃいますね。それじゃあ、お約束も決まったことですし、そろそろお暇します。ありがとうございました」
「うん、玄関まで見送るよ。あと、土曜日は十八時過ぎに着くよう来てくれたら助かる」
「わかりました」
よし、これでひとまずは済んだ。
その後玄関先まで出て見送ろうとしたら未鷹くんとこのまま大学に行くのでここで大丈夫ですよと言ってきたのはさすがに怖かったけど、二人がそれでいいならあくまでお隣さんでしかない俺には分からないものがあるんだと思うようにした。
「さてと、もうここから寝る時間無いし、昨日の今日で弁当がないっていうのも変な話だから初めて作っていくか。たしか母さんが食費を抑えるために自炊しなさいとか言って持ってこさせられたから、学生の頃使ってた弁当箱が棚の中に入っているはず」
冷蔵庫の中身を確認してその内容を決める。
玉子焼きにアスパラのベーコン巻き、牛挽き肉と玉ねぎを炒めてそぼろにするか。あとはまあ、トマトやらキュウリやらでサラダ風を装えばいいだろう。優梨愛ちゃんの物に比べたら質素すぎるけど、会社の総菜を一つ買ったらちょうど良くなるだろうし。
今七時前だから十分会社には間に合うな。さっそく作っていきますか。
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