EIGHT・「突撃」

 ーーー時刻は次の日の朝7時……場所はTK都にある高級なホテル「SHINING」。


 8回建ての外装はやはり都会らしく金の装飾が施されており、夜になれば摩天楼の1部となって輝き始める……そんなホテルだ。

 鉄火達は、今回の雇い主である「星産組」の資金援助の元、このような1つ頭が抜けた高い場所で一泊することができている。

 そんな鉄火達3人はそんな高級ホテルで朝食を終え、ホテルのラウンジから外へ出ようとしたところである。


 明らかに、匂いで伝わる値段の高いタバコの煙を吹かせた、白いジャケットを着た銀髪の女性に話しかけられた。



「ちょっとそこの君たち、いいかしら。」



 艶のある純銀のような銀髪のロングヘアーで、青い口紅が光るその女性の声は、その見た目通りセクシーで美しい声色をしている。

 そしてその女性を鉄火は知っていた。

 かけられた言葉に応えるように鉄火は返す。



「お前は……『NACナック』の『縁側 風鈴えんがわ ふうりん』……いいのか? こんな俺たちと関わっててさ。」


NACナック」……それはアメリカのニューヨークに本部を置いており、「進化した者ニューエイジ」の犯罪を取り締まったり収容したりすることを目的とした、世界的に認められている対策組織。

 また、『New Age Control』の略である。

 今まで鉄火が謎をとき捕まえてきた「進化した者ニューエイジ」達は、揃ってここに収容されている。


 この時代、警察は一般犯罪者を、「NAC」は「進化した者」を取り締まっているのだ。


「NAC」という組織は当然ながら佐門や建琉は知っているが、なぜ鉄火とその組織の女性が知り合っているのかは知らない。

 それを察知した鉄火は後ろの2人に向けて説明をする。


「この女、『風鈴』は『NAC日本支部』の副支部長さんだよ。お偉いさんだ。俺のモノサシで測ると、身長159cm。」


「ほぉ……それはそれはすごい人だな……でも何故だ? なんでお前がそんな偉いやつと顔見知りなんだ?」


 佐門は問いかける。その問いに答えたのは鉄火出なく風鈴の方だった。

 右手、2つの指に高いタバコを挟み、煙を立ち昇らせながら話す。



「悪人を捕まえるにはやっぱり『証拠をつかみ、推理する』役が必要なの。鉄火君にはその役を務めてもらってるの。まぁ、『依頼』したようなものね。」


 その答えに建琉が首を傾げながらさらに問う。



「鉄火『君』……? なぜ君付けを?」


「え?聞いてないの?私たち元々同じ高校に通ってたのよ。」


「同級生!?」


「そうよ?」



 佐門は少しばかり驚いた。驚いたのは鉄火との同級生だったということではなく、20前半の女性が一流組織の副支部長を務めているというところだ。

 こんな若さで務めることができるとは、どれだけの努力をしたのだろうとしみじみ考えた。


 高級ホテル前、鉄火は驚く佐門を横目に本題に入る。


「さて、あんたと俺の話はこれまでだ。一体何しに俺のところに来たんだ?副支部長。」


 風鈴は口からふぅーっと煙を吐くと3人を見て話す。



「あなた達が今から倒そうとしている組長さん、実は結構重要な容疑者って調査でわかったのよ。だから痛めつけるだけで殺さないでちょうだいってこと言いに来たの。だってあなた達危うく『影に潜るやつ』と『小さくするやつ』殺しかけてるのよ? こっちの医務室で預かってるけど。」



 風鈴はまた煙をフゥと吐く。その煙の匂いを嗅ぎながら鉄火は言葉を返す。


「重要ってことは、なんかでかいこと、それも『進化したものニューエイジ』関係なんだろ。説明してもらおうか。」


 その返しにまた風鈴は卓球が如く返す。


「嫌よ。結構機密事項なんだから。そーゆーのはこっちで対処するの。だから言えない。」


「……『円盤』だろ。」


 鉄火は風鈴の拒否の後にスっと風のように呟いた。そして彼女もビクリと肩を浮かす。

 この円盤というワードについては建琉も佐門も知っていたようだ。

 鉄火は続けて話す。


「……『円盤』、1年前、砂漠大国イージプトのある神殿で発掘された金属製の円盤。破壊は不可能で、何の金属なのかは謎。そして解読不可能な文字列。この円盤の表面に書かれた文字列を解明出来れば『進化したものニューエイジ』の謎についても色々と解明されることが多くあるとされるものだが、まさかその組長が謎の解明に繋がるというのか?」


 風鈴は返す。


「まぁおかしな話そうなのよ。あの円盤に似た者を組長は『1つ持っている』らしいの。ただ1つ違うところは文字列だけ。その円盤が手に入れば何か掴めるかもしれないのよ。正直あなたたちの気が進むのなら取ってきて欲しいけどね。」


 鉄火がその話に疑問が残り質問をする、その時である。ホテルから見て右にある通りから、キャーという叫び声が4人の耳に入った。

 よく聞くと「窃盗だわー!カバンを盗まれたわー!」という女性の声が聞こえる。


 その声の通り、1人黒ずくめの男がこちらへと走ってくる。手には盗んだであろう革製のカバンが握られていた。


「どけー!どくんだよそこの銀髪!!!」



 ーーーダダダダダっ!



 すると風鈴はタバコの火を消し、その男に向けて左手を伸ばすや否や、指を鳴らす。


 ーーー……パチンッ


 軽いその音は辺りに響くと共に、その男は人々の前でピカっと閃光に包まれた。

 それを見ながら風鈴は呟く。


「……『ジオ・ストーム』……『雷感ライカン』」



 そしてその数秒後、雷が鳴ったかのような轟音が辺りに響き渡った。



 ーービシャアァァァウウゥン!!!



 轟音がなった男の周りは、黒く焦げたアスファルトと溶けた標識以外の何も無くなってしまった。

 黒ずくめの男当人はと言うと、閃光による目くらまし、轟音による鼓膜の破壊、そして雷撃による感電により、情けなくその場でうずくまっていた。

 麻痺しているので、震えも出ずにいる。


 鉄火はその男を背にし、建琉と佐門に向けて風鈴の今の現象について説明する。



「彼女の能力は『ジオ・ストーム』……天候に関することならなんでも出来る。今みたいに雷をその場で発生されたり、雨を降らしたりできる。」


「それって……チートじゃないか?」


 佐門がそう言うと、髪をかきあげ風鈴彼女が答える。


「そうでも無いわよ。一歩誤ると殺しかねない危険な能力なのよ。」


 鉄火はコートのポケットに手を入れると話を割るように続ける。



「で、なんでその円盤を組長から奪うということ、それをあんたらの組織がやらないんだ? 俺たちに言う前に出来ただろ。」


「それは単純に、こっちが別件で忙しいからよ。私だって忙しいのにあなたと知り合いってだけで殺すなよっていう釘付けをしてこいと命じられたんだから。」


「そりゃま、お気の毒に」


 そこで2人の会話の最中、建琉が割り込むように口を開いた。


「鉄火さん、もうそろそろ行かなくては。時間がもり沢山あるという訳では無いのです。」


「お、わかったよ。それじゃあな副支部長。支部長のおっさんによろしく伝えとけよ〜」


 鉄火は建琉と佐門の2人を追うようにして駆け出した。その姿を見た風鈴の顔は、笑ったような表情ではなく少し不安げな、悲しげな顔であった。


 ……彼女は鉄火との間に嘘を少し紛れ込ませていた。鉄火と知り合いと言うだけで殺すなという忠告をしろと命じられた……これは恥ずかしさを隠す嘘である。

 風鈴は元々鉄火に、一方的な好意を寄せていたのだ。その好意は鉄火が察することはなく時間が過ぎていった。

 そのため、また好意を寄せている鉄火と再会しようという目的で、彼女は自主的にこの役目を名乗り出たのだ。

 別件で忙しいというのは紛れもない事実。だが、その忙しさをも無視してしまうほど、彼女は恋焦がれている。


 風鈴は3人を見送ると静かにタバコをくわえた。



 ーーー3人は建琉の案内の元とうとう目的の場所である高層ビルにたどり着いた。

 かなりの高さで、全面ガラスのためまるで鏡のように太陽を反射する。

 鉄火は空まで見上げた後、何も言わずにビルの扉を押して開く。


 ーーキキッ


 開けば組員が構えている、そんなことはなく静かな1階が3人を待っていた。

 確かに広い。しかし、人の気配が全く無い。あかりもつけっぱなし、きちんと整理された椅子や机。ベンチャー企業か何かと言われれば納得してしまうほど潔癖な空間である。

 しかし鉄火はあることに気づく。



「……床、これはタイルじゃないぞ?正方形の、1辺約1mだろうか。油性ペンか何かで床に線が引いてあるんだ。」


 鉄火はその線を擦りながら話すと、佐門も隣にしゃがみこみ話す。


「あぁ。直接線を引いている。均等に、丁寧にマスが引いてある。」



 入口で3人は周りを見渡すこと数分、鉄火が立ち上がると奥のエレベーターから、1人の男がこちらへと歩いてきたのが目に入った。

 カタカタと革靴を鳴らしながら歩くその男の風貌は、メガネに七三分けの髪、そして黒いスーツ。異様なオーラを放っている。

 鉄火は探偵の眼でその男の身長を178cmだと推定した。


 男は部屋のちょうどど真ん中に立つと、3人に向けて話しかけた。

 彼のメガネには3人の顔が映されていた。



「暑い真夏の今日のこの頃、お越しくださり誠にありがとうございます。単刀直入に言えば、私はこの組の『カシラ』という位置にいる者であります。名乗りません。 また単刀直入に言えば敵同士なわけです。私も「進化したものニューエイジ」ですが、能力も言いません。まぁ、単刀直入に言いますと、死んでいただくのですがね。」



 鉄火は返す。


「俺たちを殺すとな。良くもまぁ言えたものだな。」


 自信ありげな顔で語る鉄火。それに対しメガネをあげてその男は言う。


「単刀直入に言いますと、私、強いですよ?」


 鉄火達3人はいつものように臨戦態勢に入り、構える。

 メガネの男は腕を横に広げ、ニヤリと微笑む。その顔は悪魔のようである。



「単刀直入に、お手並み拝見……『自然の道グリーン・マイル』!!」


 ーーポァーン…



 突如、なんの前触れもなく佐門の目の前に椅子が現れた。

 佐門の顔は、いきなりの事にぽかんと口を開いている。



「……え。」


 ーーーグルシャァ!



 目の前に現れたその椅子は佐門の顔に激突し、金具に肉を巻き込みながら佐門を後方へぶっ飛ばした。

 佐門含め3人は何が起こったのか、理解をすることは出来なかった。

 過程が消し飛んだかと思うほどいきなり、突然と現れたのだ。


「おい!佐門!!!」


 鉄火は叫ぶ。そしてすぐに男を睨む。餌を狙う獅子のように。

 そして先手を打たれた鉄火は早急に攻撃を仕掛けようと男に向けて走り出す。



 ーーーポァーン……ドキャーァン!



 しかし次の瞬間鉄火は、いきなり3人の右横にある1本の柱へと激突した。

 なんにもわからぬまま、瞬間移動したかのように柱へと顔を突っ込んだ。

 これは鉄火自身意図したことではない。確かに前に進んだのだ。しかし、現状は硬いコンクリートの柱へとぶつかり、柱の前で倒れている。

(何が起きた……何が……。)

 そう鉄火は倒れながら考える。



 2人が倒れた今、建琉がまだ立っている。そして一生懸命に、目の前の謎の男を倒す策を考える。

 しかし、自分の能力、男から15mほど離れていることを考えると太刀打ちができない。

 さらに数秒経つ頃、建琉が策をねるのに必死こいていると、突然顔の左後方からひゅっと頬に風が当たるのを感じた。


 よく見るとそれはパチンコ玉である。さらに後ろを見れば、佐門がどうにか立ち直し、自身の能力でパチンコ玉を弾丸が如く男に飛ばし攻撃をしていたのだ。

 佐門の額からはたらりと血が一筋の線を書いていた。



 ーーーヒューーーーン!!



 建琉の頬に風を吹かせたパチンコ玉はそのまま一直線に男に向けて突き進むように飛んでゆくと、2秒もしないうちにその男の顔面、真正面までに達した。

 だが、この状況でも男はニタリと笑っていた。

 佐門、建琉の2人はその笑いに不気味に思いながらも玉はもう顔面を砕くだろう。そう思ったその刹那、2人は驚く表情を見せることになった。

 なんと、パチンコ玉は男の目の前から一瞬にして消えたのだ。

 そしてその消えたそれは、一瞬、2人が行方を探すその一瞬の前に建琉の右肩を後ろから貫通し、出血を負わせていたのである。


 ーードプシャァァァー!


 2人は、まるで何も理解することができなかった。

 建琉は声を発する前に膝から崩れ落ちると、先程柱に突っ込み倒れていたた鉄火がこちらに戻ってきた。

 そして鉄火は2人に囁くように話す。


「まるであいつの能力がわからんぞ……今度は『無敵インビンシブル』使って高速で近づいてやる。」


 鉄火の四肢は一瞬にして金色に光り輝く。その光は、このビルの1階をすべて黄金に染め上げた。

 能力によって輝く鉄火は、クラウチングスタートの姿勢をとると、ヒトが瞬きをするよりも速く、迅速に男に近づく。


 ーーーヒュッ


 一瞬で後1センチの所まで接近することに成功した。

 この近づいた間合い、無駄にしないようその勢いで殴りかかろうとする鉄火。


 ーーーポァーン……


 しかしそれは叶わず、鉄火が認識することも無い速さで男の後ろにいつの間にか立っていた。

「またか。」そう呟くと今度は自身の後ろ、つまり男にに向けて、能力によって輝くカカトからの回し蹴りを放つ。


 ーーーポァーン……


 しかしこれもいつの間にか鉄火が男を背にして、男を通り抜けたかのように前に立っている謎の状況により回避されることになる。


 だが、鉄火は少しばかり男の能力のヒントを掴んでいた。しかしまだ確信ではない。

 そのヒント、推測が答えとなる確信に迫るまで、鉄火は攻撃をして探りを入れるつもりである。

 そのため、鉄火はさらに蹴る。次に殴る。そしてまた蹴る。更には掴む動作をするものの、全て男の能力であろう力によって全てかわされてしまうどころか、最後の掴む動作に関しては元いた地点まで戻されてしまうはめになってしまった。

 鉄火はかなりイラついていた。それは表情にも現れており、男や佐門にも伝わっていた。


 男はにんまりとこちらを見ながら笑っている。



 しかしここで短気な鉄火、すこし気になることがあるのか、イラつく自分を抑え頭を冷やし自身の周りをもう一度その場で見渡す。すると、そのおかげかあることに気がついた。さらに覗き込むようにみると、それにより先程の推測が確信となった。

 鉄火は微笑みながら男に向けて言い放つ。



「おい、名前の知らねぇ兄さんよ。お前の能力どうやら分かったみたいだ。今から行うこの行動によって、さらにその確信は深まることだろうぜ……!」


 鉄火は構えると、右拳を後ろへと伸ばした。まるでボウリングで球を転がす際のポーズに似ている。



「お前の謎は、これだァァァ!!」



 鉄火のその雄叫びとも言える叫び声は、このビル全体に、サイレンのごとくぐわんぐわんと響き渡った。

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