FIVE・「オン・ザ・ハイウェイ」
ーーー包と勇との再戦から6日後のこと。
今日までの間、この2人のように勝負を仕掛けてくる者は出てこなかったのが幸いし、鉄火、左門、建琉3人の体はある程度回復した。
近代の研究では、『
そしてその3人は今、古き良き1980年代の音楽が流れる事務所内にて、今後の作戦をねる会議をしている頃であった。
天候は晴れ、その日差しが3人を明るく照らしていた。
「どうやらここの場所もバレてるみたいだしな。
早速あいつらのアジトへ乗り込むべきだと俺は思うんだよ。
来る前に殺る……その方がいいだろ?」
そう2人に向かって鉄火は提案をする。
その提案に左門と建琉の2人は首を縦に振った。
しかし問題点がひとつ残ってしまう。その問題を左門は鉄火に対し投げかけた。
「しかしまぁ、行くと言ってもTK都……県を3つ挟んだところだぞ……歩きで行くにも遅れを取ってしまうし、建琉のバイクもこの間ぶっ壊したばかりだ。」
その質問に鉄火は「心配ない」と言う雰囲気で2人に向かってあるものを見せた。
そのあるものとは「鍵」である。
チャリンと音を鳴らすその鍵はなんの鍵なのか。左門が質問すると鉄火は答えた。
「こいつはな、『車のキー』だぜ!
俺の親父から借りてきたんだ。
目が見えなくても音を聞き分けるのが得意な親父は今でも乗ってる。すげぇだろ。」
左門と建琉は車のキーを借りてきたことよりも、その状態で運転出来る鉄火の親父のことに驚きを隠せなかった。
しかし、その驚きは更に息を飲むほど加速させられる。
それは借りてきたという車を見た時だった。
なにせ、2人の目に映ったものは、超高級車だったからだ。その車はピカピカとこちらに光沢を発していた。
紅のカラー……右ハンドル……美しい曲線美……シートは全て革製……。
この時代きっての高級車、「ガンバルゲーニ」……。
値段は1台安くて3000万円であり、この時代は消費税が上がり30%のため、この値段でも実際、更に高くなるのだ。
なぜ鉄火がこんな車を借りることができたのか。これは結構訳があるのだ。
ーーー時は遡り2日前。
鉄火はレンタカー屋をハシゴし車を借りようとするが、正直鉄火はレンタカーというものに納得していないのだ。
プライドの高い鉄火は、人から借りるというのがめっぽう苦手であり、見下された感じがして嫌だと言うのが彼の言い分であった。
そこで5件目のハシゴを終えた後に鉄火は閃いた。それは自分の父親から車を借りることである。
これは借りるのではなく、家族で共有で使っているという言い訳にすれば、自分を見下すようにならなくて済むという、他人には分からない言い分である。
ちなみに言うと、鉄火は免許を持っているが、車を持って無い当たりペーパードライバーである。
ーーー場面は戻り事務所前。
早速運転席に鉄火、助手席に左門、後ろの席に建琉が乗り込んだ。
運転席の鉄火はドアロックをした後、キーを差し込み回す。
ーーブルルルォン……ドッドッドッ
いかついエンジン音が一瞬鳴り響くと、そこからは静かに呼吸するかのような音が車内を木霊する。
その音は男たちを興奮させたのか、左門はいつもになくはしゃいでいた。
実のことを言うと、左門は「カーマニア」である。
「おいおい鉄火、見ろよこのシート!!!
超高級本革だぞ!?
ハンドルのクリスタルで施されたそのアーチ部分最高じゃないか!!
お前が運転するのが勿体ないくらいだぞ!」
「左門……お前少し静かにしてくれかいか……。
気が散って気が気じゃないぞ……。」
鉄火は自分を落ち着かせるために、車のプレイヤーにCDを挿入し、再生ボタンをおした。
すると鉄火がいつも聞く、お気に入りの曲が流れた。
曲名は「公衆電話」……アーティストは「
さすが高級車なだけあり、ステレオは超一流。まるでライブ会場に居るかのような音響である。
「それじゃあ出発だぜ。2人とも。」
そう鉄火が言うと、「安全運転で。」と建琉が呟く。
そして3人の乗る車はエンジン音を周りに響かせず静かに発進をした。
……車は通りを抜け、街道を進み高速へ入る。
ーーー数十分がたち、車は高速を走っていた。
今日が平日だからなのか、ガラガラでこの車以外走るものはなかった。
そんな車内は、かなりガーリィな曲を流しながら鉄火が鼻歌交じりで運転をしていた。
そんな鉄火が不注意になっているのかと思ったのか、建琉は一応周りの状況を知らせる。
「依然として尾行するものはおろか、車は僕たちの車だけですよ。それはそれで少し気にかかりますが。」
「平日だからだよ平日だから。」
鉄火はそう軽くあしらうと、突然としてこちらの車の右側車線に軽自動車が現れた。
さっきまではなかった、青く艶やかなフォルムで、走る音もせず現れたのだ。
しかしこの時は3人ともあまり気にも止めていなかった。
そんなこともあるだろう、この時代ならすごく静かな車程度いくらでもあるだろうという考えからだった。
しかし、鉄火が別のCDを入れようとした次の瞬間だった。
ーードグォアン!
その青い車は、一気にこちらへと寄せてきたでは無いか。
その勢いはこちらの車を歪ませるほどであり、サイドミラーはおろか、右側のガラスはことごとく割れてしまった。
すると左門は窓から身を乗り出し、罵声を浴びせて怒号を放った。
「あの車!
左門はいつにもなく取り乱した。
先程も記述した通りカーマニアであるが、車を何百台と保有するほどにかなり重度である。
そんな左門を鉄火は、どうにかなだめている混沌とした車内となった。
そんな混沌をかき消すかのように更にこちらへ激突をする青い車。
轟音を鳴らしながら高速を走る2台の車。
このあともドカンドカンと、合計して15回も激突し、ついにはこちらの赤い高級車は、高速道路のガードと、青い車に挟まれ、左右から火花を散らしながら走ることとなってしまった。
この時の速さは、時速110km……これは鉄火が加速してるのではなく、青い車がこちらの車を挟み込みながら走るために加速してしまっているのだ。
ーーギギギギギギギーーー!
「クソ!どんどんスピードは上がるし、あのクソタレはずっとこちらに寄せてくるし!なんなんだこのパワーは!!まるで戦車じゃないか!」
鉄火はハンドルを右へ右へと回すが、ビクともしなかった。
むしろ、どんどんこちらが潰されそうになっていた。
運転席はおろか後部座席はもうボロボロになりかけていた。
しかし、運転が困難になる中、鉄火はある策を思いついた。
鉄火は更に左へハンドルを切り、ギアを最大にし、アクセルを踏み込んだ。
2人は鉄火が何をしようとしてるのか検討もつかなかった。
そうこうしてるメーターの数字は一気にMAXまで針が動く。
そんな無謀な鉄火に建琉が言った。
「何をしようとしてるんですか!
今はむしろ速度を落とさないと!加速しても何ができるって……」
そう怒鳴る建琉に鉄火は前を指をさしながら落ち着いた口調で返した。
「目の前見てみろよルーキー。あれが見えてねぇのか?」
そう指さされた方を見ると、数キロ先に、急な坂のようになっている、砂や土の山が目の前にあった。
それを見るとむしろ鉄火の方を建琉はゆすぶった。
「なんですかあれは!!むしろ落としてくださいよ!!ぶつかりますって!!」
「安心しろって建琉、あれはなぁ、『緊急避難所』ってやつさ!!」
緊急避難所とは、道路脇に設置されているもので、ブレーキが効かなかったりする車はそこへ突っ込む。
被害を最小限まで抑えるように設けられたものなのである。
鉄火はさらに加速し、その加速は青いからの攻撃をぬけ、緊急避難所へ突っ込んで行った。
ーーギュルルルルルルーーブォーン!!!!
「馬鹿じゃないですかァァァ!」
ーードガアーーン!
3人の乗る車はそこへ突き刺さるように停止した。
最小限とはいえ、あの速度でぶつかると、相当な衝撃があるのだ。
そして高級車はこれにてお釈迦となってしまった。
それぞれ3人はドアから出ると、後方から来る青い車の方を向くと、その車はこちらへとどんどん突進をしてくる。
そろそろ止まるだろう。そういう距離というのに減速をしない。
3人は悟った。「こちらへ突っ込んでくる」ということを。
ーードシャァン!
そう悟るのもつかの間、猛スピードで走るその鉄の箱はついにこちらへと突っ込み、3人を道路へ放り投げるが如く突き飛ばす。
道路の真ん中で、3人は倒れ込んだ。
「どうなってんだあいつ……!2人とも、大丈夫か!?」
鉄火は疲れた顔で2人を心配するが、どうやら軽傷で済んだようだった。
「大丈夫さ鉄火……だがな、俺はあいつを許さんぞマジ。」
「ほんとですよ……僕も1発ぶん殴らせていただきますよ……!」
3人はその場に立ち上がると、その青い車から1人の男が出てきた。
黒髪で七三分け……季節外れにも、茶色のダウンを着ており不思議なオーラが漂っていた。
その男は出てくるや否や、3人に声をかけた。
「おっと、死ななかったか……。運のいいヤツらだ。
「お前は誰だ」って顔してるから教えてやるよ。
おれはお前らを殺すために雇われた殺し屋……さ。」
そう男は言うと、こちらへと歩み寄った。
てくてくと落ち着いた足取り……そのスピードは速いものではないと考えた鉄火は、すぐに攻撃を仕掛けた。
その攻撃はまさにイノシシのように突っ込む形で行われた。
鉄火は高級車をぶつけられ、怪我を負わされ、上手くいかない今日という日に苛立ちを覚え、真っ先に攻撃を仕掛けたのだ。
「そうやって近づいてきたのが命取りだ!『
『
ーーブンッ……サラッ……
鉄火は能力により電球が如く輝く右ストレートを放つ。そのスピードはまさに閃光だった。
しかし、鉄火にはその一撃が当たった感触がしなかった。
なにかに当たったという感触さえもなかった。
「消えた!!避けられたか!!しかし、あのスピードを避けるすばやさがあるのか……?
そうは見えなかったぞ……!」
鉄火は不思議に思った。
その不思議を感じながら鉄火は、拳の先をよく男の方を見ると、鉄火の思いもよらない事態となっていたのがわかった。
なんとその男の体は、「塵」になっているのだ。よく見ないと分からないほど細かく、その塵はそれぞれ「立方体」の形をしている。
つまり塵ひとつひとつが小さな立方体なのだ。
上半身が塵になり、パンチが当たっても当たる感触がなかったのだ。
そして、細かな塵になることで鉄火の目の前から消えたように見えたのだ。
鉄火は少し驚くが、体制を直しまた攻撃を仕掛ける。
「砂のように細かな塵になっている!!!少し驚いたがどうて事ない!
連続ラッシュで細かくなろうが関係の無い攻撃なら、倒せるはずだぁァァ!
『
ーーシュパパパパパパパパ!!!!
鉄火はその割れた男に向けて何十発というストレートのラッシュを放つ。
この技はまだ未完成であり、今のところはこれが限界である。
男は連続で放たれるパンチをかわすように塵となり、攻撃をまぬがれている。
ーーサラァ〜〜……
「まだ能力もよくわかってないのに攻撃をするとは自殺行為だな!!探偵!!
特別に見せてやる!この能力の真髄を!!
『
我が能力は『細かな立方体の塵となる』事!!!」
そういうと男は全身を塵にし、鉄火に被さるように漂った。
「消えたぞ!!」
すると、その塵はだんだん男の形へとまとまっていき、その形、体制は鉄火の首を後ろから腕で締めている体制となった。
「な、なんだっ!」
鉄火はその状態のまま後ろへ肘や拳を振るうが、塵状
になってしまう男へダメージは与えられなかった。
「塵になるという能力。
この能力により、様々な殺しができるようになった……。
攻撃、回避、全てにおいて最強なのだよ!!」
すると、その男に向けて左門はその場にあった石を能力により数発打ち込む。
「くっそぉ!『
ーーパシュン!!
しかし男はすぐ塵状になってしまい後ろへ抜けてしまう。
「無駄だ!
銃弾など俺には蚊も同然!!すぐにこの探偵を殺してやる!!」
その男はどんどん首を絞める力を強くして行く。
そして今度は建琉が鉄火を助けようと向かった瞬間、建琉と左門に向かって、どこからともなく、黄色いショベルカーが落下してきたのだ。
ーーードギャァァァン!
「なんだ!ショベルカーが急に!!」
間一髪で2人は避けることに成功するが、それを見て男は笑いながら言う。
「あぁ。忘れてた。
俺はひとりじゃない。『ふたり』で来てるんだ。」
するとショベルカーはだんだん人の形へと変形してゆく。
ぐにゃぐにゃと粘土のように。
変身し終わると、その姿は、まるで工事現場の作業員のような風貌だった。
黄色いヘルメット、白いタンクトップ、ムキムキの体、そして強烈な汗の匂い。身長は190はあるだろうか。
その男は2人の方を向き言った。
「お前らが殺す標的かぁ……。
俺の名前は『
そして能力は、『ファスト・アンド・フューリオス』……『あらゆる乗り物に変形する能力』だ!!!
そしてそっちのキザ野郎は『
鷲雄がそう言うと、樺瑠は鉄火の首を締めながら、危機感を覚えた口調でさけんだ。
「おいお前!なんで俺の名前バラすんだ!馬鹿だなお前は!」
「なんだとキザ野郎!!」
突如2人は言い合いをし始めた。
どうやらこの2人の相性は良くないようだ。
すると、鉄火は言い合いをする樺瑠の隙をつき、能力により光る手刀で腕を切断し、絞首から脱出すると、その顔面へと回し蹴りを入れた。
しかしその攻撃はそれぞれ塵となりかわされる。
その行為に対し、樺瑠は鉄火に向けて言い放つ。
「邪魔すんなよ探偵……。
こっちは内輪喧嘩中なんだからよ……。
おい、やっちまえよ鷲雄!!」
「任せときな樺瑠!!!
『ファスト・アンド・フューリオス』!!!」
ーーグニュニュワァァーン
鷲雄は今度は大型トラックに変身し、ラジオ音声を用いて鉄火に話しかけた。
「押し潰してやるぜ探偵!!!
二度とお天道様を拝めねぇようになぁ!」
エンジンの轟音を響かせたトラックは、今まさに「一直線」で、鉄火を轢き殺そうと発進を開始する。
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