FOUR・「再戦コンビPart2」
ーーー時は遡り、午後の1時5分。
鉄火がコーヒーの粉を買いに事務所から出てから5分後のことである。
左門はキッチンから2人前のショートケーキとフォークを持ってくると、低いテーブルの上へ置く。
その際、波佐実が置いていった一丁の銃を眺めながら建琉に話しかけた。
「建琉さんは、幾つなんです?」
建琉は低い声で「20です。」と答えた。
無表情で、何を考えているのか分からない……そう左門は感じていた。
「……20……歳下なんですね……見えませんけど。」
「よく言われます。」
「……何乗ってこの事務所来ました?」
「自分のバイクです。」
建琉は質問に答えるものの、なかなか話が続かない状況に、左門は鉄火とは違う扱いにくさを覚えていた。
鉄火はうるさくてマイペースという扱いにくさだが、こっちは何も起こらなすぎで扱いにくいのだ。
そんな左門は、ここまで無口な彼でも答えられるだろうかと心配になりながら、気になっていた疑問を投げかけた。
「……そういえば聞いてなかったよね。
潰す相手の組……どんな組なんだい?
それさえ解れば、なんとか手数踏めそうだけど……。」
建琉はケーキを少しだけ口に運ぶと、左門の目を見て問に対する説明を始めた。
「……潰して欲しいという組は、私たちの組とは犬猿の仲と有名な、『
通称、『バトル・エンジェル』……そう呼ばれるほどに、いま頻繁に抗争を置こしては、私たち含め他の組から軽蔑の目で見られているのです。
そしてそんな『有板組』は突如『
理由は多分、『戦力の拡大』でしょう。
どんなにくだらない能力でも、使いようによれば最強となるこの現代において、やはり必要となってくるのでしょう。
私たちヤクザは今、その『有板組』によって友好だった関係がめちゃくちゃになってたりするんです。
なのでお願いです。私も協力しますから、どうか解決をして貰えないでしょうか。」
かなり謙虚な言葉使いに左門は見た目とのギャップを覚えたが、「任せてください」とだけ返しケーキを頬張った。
ーーー沈黙とともに時計の針は午後の2時を指していた。
この頃鉄火は包と出会い戦いを繰り広げている最中である。
左門は事務作業をするにあたって書類をバインダーに挟んでいた。
そしてふと時計の針を見て、建琉に疑問を投げかけた。
「なぁ、もう1時間経つけど、鉄火が帰ってこないよなぁ。
あいつどこほっつき歩いてるんだか……。」
時計の音しかしない中、建琉は事務所内の本棚の本に指をかけながら返す。
「あの鉄火という人、僕が言えたことじゃないですけど、なかなかに扱いづらい方だなと思います。
僕もどこに油を売ってるのかさっぱり……」
「だよなぁ……。」
左門は建琉もほとんど同じことを思っていたのかと、少し嬉しい気持ちが芽生えた。
例えるなら、学校で忘れ物をした時、同じように自分以外の人が忘れ物をした時の、なんとも言えない気持ちと言えばいいだろうか。
左門はそんな気持ちを抱きながらテーブルの上にある書類へてをのばすと、少し違和感を覚えた。
(何か……変だな……。指1本遠い気が……。)
その違和感は建琉も感じていたようで、左門に駆け寄ってその違和感を話した。
「左門さん、私、あの本棚……結構上まで手が届くはずなんです……なのになんなんでしょうか。
さっき手を伸ばしたら、少し高い気が……。」
その話を聞いて左門の頭にビックリマークが大きく浮かんだ。
書類をテーブルに置き、自身の
「この現象、前にも起きたことがある。
あのアパートの事件……その事件を鉄火は自らの手帳に『
そして波佐実の話……『前に戦った『
そして結論は出る。
(ということは……ここは危ない!)
左門は建琉の腕を掴み、事務所のドアめがけて突っ走り、少し高いドアノブを掴むと、それを蹴破った。
「これは……!『
ーーバギャン!
蹴破られ
すると、事務所の前にある街灯の影から、見覚えのある顔の男がのそっと現れた。
前に左門の能力で一時無力化された「伊崎 勇」本人であった。
勇はニタリと微笑みながら、左門達を睨みつけ両掌を2人に向ける。
「この間は瞬殺されちまったよなぁ……?
だがそれは、あくまでお前たちを標的にはしていなかっただけの事……。
あのアパートを嫌がらせすれば良かっただけの事だからだ……。
だが……今は違う!
今はお前たちを殺す!
だから少し本気出すぞ!『
そういうと勇は手を握り拳を作る。
その拳には、何か「オーラ」のようなものを纏っているように2人は見えた。
その2人を見て勇は得意げに話す。
「見えたか?
これが俺の『
『際限なく小さくする空間』そのものを纏っている!
そして小さくなるスピードはこの前の30倍の速さで小さくなる!!
これが!『5Ft・アパート』!!
『
そう叫ぶと勇は拳を構え、左門に向かって走り出した。
そして左門の前に素早く近づくと、その拳で殴り掛かる。
だが左門もその拳を避け、勇に左のボディブローを食らわす。
すると勇はよろけ、その場に倒れ込み嘔吐する。
「ぐぐげぇ〜〜!」
びちゃびちゃと口からアスファルトに嘔吐物が滝のように流れ出る。
左門はそこをすかさず駆け寄り、倒れ込んでいる勇の顔面を蹴りあげた。
これには勇も背中を逸らして悶える。
ーーーダッ!!
が、しかし勇は足を踏み込み、蹴りあげた左門の脚を掴もうとする。
「捕まえたァ〜〜!!!」
「なんてガッツだ……執念がすごいぞこいつ!……だが!」
左門は掴まれていない自由な方の脚で、掴んでいるその勇の腕を強めに蹴り強制的に離させた。
その結果勇の手には左門の履いている革靴が握られている訳だが、その靴は瞬きをするくらいの速さで豆粒程度に縮小し、地面へポロリと落ちていった。
「お前もこの靴みたいにちっちゃくしてやろうと思ったんだがな。」
「寝言はベッドの中で言いな。」
すると左門は無防備にも勇へ向かって突進をしだした。
その際、建琉の方を向き、右目でウィンクをして合図を送った。
勘がいいのか建琉はこのウィンクの意味がスっとわかったようだった。
「分かりましたよ左門さん。
お望みとあらば受け取ってください!」
そういうと建琉は左門に向かって何か小さな棒切れサイズの物を投げる。
その
左門は勇との間合いを10メートルほど詰めると、その右手の物を親指と人差し指でつまみ前にいる一人の男の方へ向けた。
そしてその時に、勇は今こちらへ向けられている物体が何かがはっきりわかった。
それはケーキを食べる時に2人が使っていた「スイーツ用フォーク」であった。
そのフォークを見て勇は思わず笑いが漏れ、見下したように言った。
「フォーク?そんなもんで俺を刺すってのか?
刺さっても殺せる威力はねぇだろ!」
「刺す……?違うね!
『撃つ』んだよ!!!!
『
ーーーバキュァァン!
左門はパッとその場で指をフォークから離すと、指先から煙を出しながら、そのフォークはビュンッと勇の胸めがけて射出された。
しかし勇はそれを防ごうとフォークに向かって拳を放つ。
「『
フォークを小さくして無効化してくれるわ!!」
しかし、そう言い放った瞬間に、そのフォークからは蝶のような青い羽根が生えてきたのを勇は見た。
「な、なんだぁこの羽根はぁ!」
驚く勇に建琉は言う。
「僕が触れた物には『蝶の羽が生える』……
それが僕の『
そしてその羽根はパタパタと羽ばたくと、フォークの飛ぶ軌道が変わって拳をかわし、勇の胸へと突き刺さった。
しかし持つ時間が短かったのか威力は低いようで、あまり深くまでは刺さらなかったが、ダメージは与えることに成功した。
と思っていたのもつかの間。
怯むことなく勇はフォークを引き抜き地面に捨てると、ボクサーのように拳を構えた。
左門と建琉も同様に拳を構える。
勇はその構えた2人に向かって血を吐き捨てると、血が垂れる口を拭って話す。
「フォークを……刺したからどうだと言うんだ……!
ここでお前らをちぃ〜っちゃくして、踏み潰せば変わらんことだろうがァ!」
今度は勇が2人に向かって駆よると、次に狙ったのは建琉の方であった。
建琉へ向かって勇はエルボーのようなフルスイングパンチを放った。
しかしそのパンチは建琉が拳を掴まず腕を掴むことで防御される。
「よく防御できたなガッ……!!!」
その防御の隙を見て建琉はみぞおちに膝を1発ぶち込むと、掴んでいる勇の腕を弾き飛ばし、防御した方の手による掌底で勇の胸骨を打つ。
そしてその攻撃に仰け反る勇を見落とさなかった左門は、右のミドルキックで勇を後ろへ突き飛ばした。
しかし勇は突き飛ばされようとも、近くにあった標識のポールをつかみ踏ん張った。
その手を離す頃にはポールは縮小し爪楊枝サイズまで小さくなっていた。
「なかなかに痛かったよ……。
だけどな、今日のとっておきがまだ残ってるんだな。」
そういうと勇は立ちなおすとポケットから何かを取りだした。
左門が見るにそれは紛れもなく「ミニカー」であった。
緑色のセダンのミニカー。それで何をするかは2人も検討がつかなかったが、ようやく探偵である左門は建琉よりも先にそれがなんなのかを理解した。
(何おもちゃだしてんだ?……いや、あれはおもちゃなのか……。
いや待てよ……縮小能力……そして今のあいつの状況……おい、まずいぞ!!)
しかし、理解するタイミングは遅かったのか、既にその車は左門たちの方に向かって投げられていた。
「理解したか探偵!!
これからお前たちがされることが!どんだけ怖いか!
『
『
そう勇が叫んだ瞬間、そのミニカーはグンっと普通の乗用車と等しく大きくなり、建琉や左門に重く激突した。
ーーーガッシャァァァン!
「これは!大きくなったと言うより「元の大きさに戻った」……のか!!!」
「車を小さくし、こちらに投げたところで縮小を解除した……なかなかに頭使ってますよ左門さん!」
この攻撃により、左門は左腕を負傷し、建琉は右足首を負傷してしまった。
さらに、2人はガラスが割れに割れたボロボロのセダンと、事務所の壁にサンドウィッチのごとく挟まり身動きが取れなくなってしまった。
そしてそれを見て勇は嘲笑った。
「情けねぇなぁてめぇら!
1度倒した相手に逆転されちまうんだからなぁ……。
調子乗った罰だ……ここからは静かに綺麗な状態で殺してやるよ……。」
そういうと勇は
そしてその刃を出すと、逆手持ちし2人へジリジリ近づいて行く。
「もうおしまいだよ探偵とヤクザ諸君……。
あの世で先に待ってやがれぇ〜!!!
この際言ってやる!
お前らは俺が殺し!
鉄火の野郎はもう1人の野郎が殺すんだよぉぉ!」
そういうとまずは左門に向かってナイフを振り下ろした……。
ーーーヒュン!
……しかし、そのナイフは左門の肌に接触するかしないかのところでピタリと止まった。
勇は自分の手を見てから足元を見ると、勇のいるところだけに大きな影ができていることがわかった。
勇はナイフを持ちながらあちらこちらを振り向く。
しかしながら今この場で勇に影を伸ばすものは無かった。
では何なのか。その答えは上を見てようやくわかった。
「なんだっ……て……。」
なんと勇の真上には、赤いバイクが宙に浮き上がっていたのだ。
その驚く勇に向かってまた建琉は言う。
「驚いたかい……リーマン野郎。
俺の能力で浮かばせている……。
触れた物……生物じゃなきゃなんでも浮かすことが出来る……。
だけどね、さすがに重いよバイクは……。
右ハンドルをつかみまくって約10匹分。
左ハンドルをつかみもう10匹分……。
座ったり……足が触れたり色々したのを含めて500匹はいる……。そんだけいれば余裕で持ち上げられる……僕の乗ってきたバイクだからそんだけ触れているだろ?」
勇はその言葉を聞くと、これから何が起こるのか、直感で理解した。
上にあるものがこれからどうされるのか。
答えはひとつである。
ーー落ちる。
しかしその直感のフィーリング、答えをかき消すかのように建琉は叫んだ。
「お前が仕返しに来たのなら、それに対する仕返しも在るべきだろう!
これがその仕返しだ!『
浮いているバイクからは能力の蝶の羽が消え、その重さを活かしたまま垂直に落下する。
それに気づき勇は手を伸ばし能力を使おうとするが、それは間に合うはずがなかった。
ーーーグジャァア!
その落ちてきた大きな鉄塊に腕と鼻をへし折られ膝を崩す勇。
しかし勇への「仕返し」はこれだけではなかった。
突如として左門の手元から煙がたち昇った。
「俺の能力、人差し指が触れてれば触れているほど強力になるんだけどさ、触れすぎても火傷しちまうんだよね。」
そう言うと左門は壁と車の間にて、指を離した。
「『
『
ーーーガチューン!
するとその刹那、一瞬にしてバイクに潰れる勇へと車が放たれ、2人は自由の身となった。
その車はバイクと勇を運び、そのままそれを向こう側の壁に押し込んだ。
大きな轟音と共に、車のと壁との間からは爆炎と血飛沫が舞うと同時に、一気に白いその壁を真っ赤な血で染め上げたのだった。
そして黒い煙が立ち込めた頃、アスファルトの目には血の道がヒビのようにできていた。
そしてその血のヒビを見て左門は疲れ果てた声で発言した。
「俺たちを殺しそびれたな……クソ野郎。
鉄火を殺す奴がいる?
絶対無理だね。だって、
『あいつは俺より喧嘩強ぇからよ。』……。」
ーーー数分後、2人は事務所内へ入る。
左門と建琉は頭や口から流血を起こし、貧血に至っていた。
そんな2人がお互いに手当をしていると、これまた血みどろの鉄火がドアを開き帰ってきた。
帰って早々鉄火は口を開く。
「なぁ、あの廃車と火事ってお前らの仕業か?
まぁ俺も1台ダメなしちゃったけどよ。」
「帰ったか……鉄火……縮小リーマン野郎を倒した残骸だよ。あれ。」
鉄火は頷きながら、ニット帽を脱ぎ床に捨てるように置くと、話を続ける。
「体、回復したらこっちからも行ってやろうじゃんかよ。
カチコミって奴か?
売られた喧嘩くらい買ってやるさ……。
なぁ、あいつらの本拠地って何処なんだ?」
その質問に素早く建琉は答える。
「それは……少し遠いですが……。
TK都、『
鉄火は少し伸びをすると、その答えをいつも持ち歩いている手帳へ書き写したあと、2人に向けて言った。
「フゥ……これからだぞ……今回の依頼はまだ始まってねぇんだからな!
2人とも!気ぃ張ってこうぜ!」
そう、鉄火の言う通り、この物語はまだ最序盤に過ぎないのである。
左門と建琉の2人はその言葉を噛み締めように理解した。
……そして、真っ直ぐと立つ鉄火を夕日は明るく照らし続けたのだった。
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