第11話 彼女を知る人

 二人はカイルが走っていった方へ歩みを進めていた。どうやらレンのもつ修正パッチもとい『バグを断つ剣』を使わないと先へ進めないらしい。


「どうしたミレイ? 何かすごい怪訝そうな顔をしているけど」

「……思ったんだが、もしかしたらこの一連のバグ、かもしれない」

「えっ? 俺達以外の誰かがウィスタリアをおかしくしたって? そんなバカな!? そもそもウィスタリアの存在を知ってる人ってほとんどいないはずじゃ」

「そうだね。まず私達、私の両親、あと高木くらいかな? この中でバグを起こす様なウィルスを作れそうのは両親くらいだけど、基本的にはエアメールでしかやり取りしてなかったしそもそもウィルスを作る理由がない。高木にはウィルスは作れないだろうし、レンに至ってはパソコンの起動も怪しいし」

「いやさすがにそれくらいは出来るわ。でもそうなると人為的なセンは薄いんじゃないか?」

「私の杞憂ならいいが、バグにしては症状が多岐に渡っている上に狙ったかのようにタイミングも悪い。よりによってログアウトが不能になったからな。それにレンにデバッグしてもらってた時には発生していない症状ばかりだし」

「他に思い当たる節はないのか?」

「うーん……一人、可能性がありそうな奴ならいる。『ナーシャ・ストールマン』だ」

「『ナーシャ・ストールマン』!? ……ってどなたですか?」

「私が海外に行っていた時にクラスに居た奴なんだが、どうやら私が編入するまで成績トップだったらしいんだが、私が来てからはずっと2位だったんだ。そのせいかちょくちょく目の敵にされてな」

「ウィスタリアの事も知ってるのか?」

「全ては話してないが、存在は知っていると言ったところか。もしかしたら彼女なら外部からのアクセスを可能にするかもしれない」

「そいつも、天才の部類なのか?」

「そうだな、私がプログラムに長けているとしたら彼女はハッキングに長けていると言える。まぁ本気でやればハッキングでも私が勝つだろうがな」


 さりげなくマウントを取っているかの様にも感じるが彼女の場合、本当に成し得るかもしれないから恐ろしい。


「ミレイ、10年近く同じコメントし続けるけどやっぱりお前すげえよ」

「なんならもっと褒めてもいいんだぞ」


 レンの語彙力のない褒め言葉でも、ミレイはフフンと得意げになっている。


「ええと、そのナーシャって奴がウィスタリアにウィルスをいつの間にか送り込んだ可能性があると?」

「可能性に過ぎないがな。何らかの操作が条件でトロイが開くようになっていたとかであれば出来なくもない」

「なんにせよ管理室に行かないとどうにも出来ないんだろ? とりあえずは推測で留めておこうぜ」

「……そうだな」


 しばらく歩いていると、カイルとその隣に女性と体格の良い男性がミレイの到着を待っていた。


「待ってましたよ、ミレイさん!」

「この人がミレイが探してたって人?」

「随分小柄な兄ちゃんだが本当に大丈夫か?」


 カイルの他にレンの知らないキャラが2人いる。恐らく先ほど報告しに行った仲間達だろうか。


「えっと、この方達は?」

「ああ、まだ紹介してなかったね。私がレンと会う前に知り合ったNPC仲間達さ」

(仲間……って言ってもNPCなのか)

「私はミィナ。賞金稼ぎよ」


 プラチナブロンドの長髪を一つの三つ編みにしており、瞳の綺麗な淡い青色が絶妙にマッチしている。背中には大きな弓を携えており、少しでも機動力を得る為か、服装がかなり軽装である。


「俺はソル。同じく賞金稼ぎだ」


 暗めの銀髪にバンダナのような物を巻いており、体格も背丈もレンより大きく、顔には切り傷の痕が幾つかあった。背中に大きな剣があり、力強い剣士である事が伺える。


「あ、俺はレン、折原蓮ていいます」

「赤みがかった短髪に少し小柄な青年で、あまり目立った特徴はないが、私に優しい。でもそれほど賢くないのが玉にキズだ」

「他己紹介ありがとうミレイ。でももうちょっと甘口の紹介が良かったかな。もう遅いけど……」

「――よろしく」


 レンは、ミレイやカイルの仲間である2人に挨拶をする。


「レン、彼等も達だ」

(気付いた者、カイルが言ってたやつか)

「レン、これは恐らく成長型の人工知能が関係していると踏んでいる。処理能力が一定以上向上する事で、バグに対しての耐性の様な形で反映されている」

「そうか、だから同じバグでも影響を受けるNPCと受けないNPCがいるのか!」

「もちろん彼等にはNPCやバグの話しをしても理解は出来ない。故に、街に集団催眠をかけた手配犯ブラックリストがいると説明してある」

「なるほどな……」

「そういう訳で、レンにギルドまでの道を文字通り切り開いてもらおうか」

「えっ? どうやって?」


 ミレイの無茶振りはウィスタリアの中でも健在だった。


「見せてもらおうか、兄ちゃんの実力を!」


 ミレイに乗せてソルも腕を組んでワクワクしながらレンに期待の眼を寄せる。


「いや、見せ方分からないんだけど……?」


 目の前に切るものはなく、ただ道が続いているだけ。レンは半信半疑でしぶしぶ剣を構えた。


「レン、。後はその剣を振るえばいい」


 レンはミレイの言葉に頷く。一抹の不安は残ったが思い切り剣を振った。

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