第二編

序章   わたくしの夢は

第0話   わたくしの夢と悲願

 わたくしには、あの日以来お嬢様の様子が、ほんの少しだけ落ち着きを失ったように思えました。それはほんの些細な機微であり、端から見たら、違いなど見受けられないかもしれませんが、ずっとおそば近く使えているわたくしには、お嬢様が焦っているようにも、ワクワクしているようにも伺えるのです。


 それもこれも、あの「種馬公」に、おかしなことを吹き込まれたせいですわ。


 それにあのうた……普段のお嬢様なら、古びた道具に染み付いた思いを読み取るために、その道具に触れる必要があるはずですのに、あの時の詩だけは、何にも触れずにそらんじました。


 不審者と対峙しているという危機迫る空気感の中で、当時のわたくしは、お嬢様が何も持たずに読み上げている姿に、違和感を抱くことが遅れてしまいました。


 あの日以来、お嬢様はどこか上の空。いいえ、雲の向こうの天国に思いを馳せているかのようです。あぁ、縁起でもない……。


 わたくしの悲願は、原因不明のまま散り散りとなってしまった名門ナイトウォーク家の生き残りを捜し集め、わたくしが当主としてお家復興を成し遂げること。さらには、心身共にわたくしを支え、協力の手を惜しみなく伸ばし続けてくださったお嬢様へのご恩に、報いることなのです。


 お嬢様と末永く良好な関係を築いていきたいというのが、わたくしの最大限のわがままなのですが、この夢も絶対に叶えたく思っております。


 絶対の、絶対に。


 最後に笑うのはわたくしであり、そして微笑み合うお相手は、ダリアお嬢様でなくてはダメなのです、絶対に!


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