043. ひとりぼっちの魔法使い
ママは僕を落ちこぼれだって言う。
隣の家のミナトも、いとこのカイトも、僕と同い年なのにもう火の魔法も水の魔法も自由に使いこなして、そろそろ風の魔法の勉強を始めるらしい。
風の魔法はイメージがしにくいから、魔法の勉強の中でもちょっと難しくて、本当は中学生にならないと勉強できないんだって。僕はまだ、最初に覚える火の魔法だって使えなくて、だから僕の部屋は暗いまんまだ。
ママはだから、僕を落ちこぼれだって言う。そのことをサムスに言えば、サムスはぷっくり頬を膨らませて、ママは見る目がないんだよ、と慰めてくれた。
サムスと僕は、生まれた時から一緒にいる。でも、僕以外の人にサムスの事は見えないみたいで、僕はいつも変な子ねって怒られた。何もないところに話しているみたいに見えるんだって。
「ねえ、サムス」
僕の部屋は真っ暗だ。
僕の家では、部屋の明かりは自分の火の魔法でつける“きまり”になっていて、夜になっても誰も明かりをつけてくれない。ママは僕に早く火の魔法を使えるようになってほしくて、わざと一番暗い部屋を僕の部屋にしたんだ。この部屋は窓がないから、昼間だって真っ暗だった。
昼間は扉を開けて、外の明かりを何とか中に入れているけど。
夜になると部屋の扉は閉じられて、僕は真っ暗闇に一人きりだ。いいや、サムスがいるから、一人きりではなかったけど。
一人はさびしい。一人は寒い。
暗闇に慣れてしまった目で何とか布団を体に包む。あったかいはずなのに、僕はいつも震えてた。
呼びかければサムスはなに? と問いかける。僕以外、誰もサムスの事が見えないから、本当は一人っきりじゃないのを知られないのは良かったと思う。でも僕は、サムスじゃなくて、違う、誰かに傍にいて欲しかったけど。
「サムスが、本当にいたらいいのに」
たまに僕はそんなことを言う。サムスはその度苦笑して、お前が望むなら、と僕の頭を優しく撫でた。
正確には、撫でるふりをしたんだ。僕の目にサムスははっきり見えていたけど、サムスは僕に触れない。物に触ることもできないから、僕が部屋の扉を開けてやらないと、サムスは一人で出歩くことだってできなかった。
本当は、わかってる。きっと、僕がサムスを閉じ込めてるんだ。それなのに、僕は触れないサムスじゃ物足りなくて。
「ねえ、サムス」
問いかける。サムスは笑ったまま、布団に包まる僕の事を見守っていた。僕と同じくらいの男の子なのに、僕より少し大人びた顔で。
真っ暗な部屋でやることは何もない。僕はすぐに眠たくなって、うとうと、うとうと、息を漏らした。
「もう少し、お前の力が満たされたなら」
ふと、サムスの掌が髪に触れた気がして。
僕は夢かな? と小さく笑う。もう閉じてしまった瞼のせいで、今、サムスがどんな顔をしているのかわからない。
「そうしたら、お前の望み通り。お前は世界で一番尊い、偉大な魔法使いなのに」
それから囁くサムスの声も、もう僕はわからないのだった。
(20220711/23:30-23:45/お題:たった一つの魔法使い)
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