037. サンタクロースは寝坊する
慌ただしく駆け回る人々を眺めながら、サンタクロースはたっぷりと蓄えた髭を丁寧に摩った。
今年の冬も忙しない。傍らのソリには次から次へとプレゼントが積まれていくし、長距離を走るトナカイは今も筋トレの最中である。
サンタクロースはというと、自慢の衣装も早々に新調し終えていたし、最近は訪問先の子供の情報をクラウド化したので、例年のように手書きで一覧を作る必要がない。ソリのメンテナンスも早い時期に済ませていたので、新しく塗りなおされた緑のボディが美しいくらいだ。
デジタル化ってのはすごいもんだのう、と、サンタクロースはぼんやりぼやく。なおも、サンタクロース以外の人はわたわたと忙しなく動いていたが。
「サンタさん、何かやることないんですか!」
あんまり優雅に佇むサンタクロースを見かねて、プレゼントを運ぶ小人の一人が声を上げた。背中に大きな包みを抱えて重そうだ。サンタクロースは朗らかに笑うと、「ないのぉ」と頷いた。それから、立ち止まったせいでずり落ちそうな包みを抱えなおしてソリに積む。小人はぴょんっと跳ねて「僕の仕事!」と怒った。
「もう、サンタさんは自分の仕事をしてくださいよ!」
いやはや、小人の言うことは最もだった。サンタクロースも、仕事があればそうしていただろう。昨年までなら今頃手にペンダコを沢山作りながら、住所リストを制作していたはずである。
「デジタル化してなんもかんもが終わってしまっていてのう……帰って、“しわす”れがありそうじゃ」
師走なだけに。
ぽそりと付け足してみたものの、小人は「じゃあどっか行っててください!」と叫ぶように言い放つと、あっという間に工場の方へ戻ってしまった。また新しいプレゼントを探すのだろう。
遠のいていった小さな背中を見つめながら、サンタクロースは「寂しいのう」とため息を吐く。あんまり忙しそうだったから、ちょっとユーモアで笑わせてやろうと思ったのに。
「……そりゃ、怒りますよ、サンタさん」
どこから聞いていたのか、腹筋を終えたトナカイがぼそりと呟くように言った。
それから縄跳びを始めたトナカイを尻目に、サンタクロースは肩を竦めて、いよいよこの場にいても意味はなさそうだ、と家の方に足を向けた。
やることがなさ過ぎるので、クリスマスまでもう少し眠っていようかのぉ、なんて。
師走に呑気な欠伸をする。トナカイが呆れた様子で、「寝過ごさんようにな」と忠告をした。
(20220622/22:45-23:00/お題:12月の駄洒落)
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