003. 欠陥品
はあ、と吐かれたため息に、反射で肩がびくりと跳ねた。
母が難しい顔で眉間に皺を寄せている。「何度見てもあなたはダメね」と、聞き飽きた言葉を吐いた。
俺を見るたびに、母はそうしてため息を吐いて、顰め面で、「でもどうしてダメなのかわからないわ」と首を傾げる。わからないくせに、とことん俺は「ダメ」らしい。
「この服を着せても、違う衣装にしても、小物を持たせてもてんでダメ。まるで花がない」
聞きなれた言葉だったとしても、鋭利な言葉はぐさぐさと胸を突き刺して、そのまま大きな穴が開いてしまいそうだった。
実際、母は俺の胸元をぐしぐしと擦ると、気に入らなさそうな表情で「あーあ」ともう一度ため息を吐く。いつもの流れだ。何度も何度も繰り返された、
(いっそ、捨ててくれればいいのになあ)
思えど母は決して俺を捨てようとしない。
ダメだ、花がない、つまらない、意味がない、と貶しながら、決して俺、自身をなかったことにしようとはしないのだ。
それがひどく、胸に痛い。
母は変わらず俺の胸元をぐしぐしと擦り続けていた。刃物のような言葉に合わせてぽっかり空いた胸と同じく、次第に胴、全体の線画薄れていく。今日はこの衣装、と着せられたジャケットも、シャツも、インナーも、俺、自身さえ擦り消されて、俺は嘆きたいのをぐっと堪えた。
「どうやったらこのキャラ、もっと生き生きと描けるのかしら」
母にとっての俺はたぶん何かが欠けたキャラクター、で。
紙面上でじっと母を見上げるしかできない俺は、今日も新たな場所に生み出されては、貶されて、描きなおされるのを待っている。
(20220406/01:13-01:28/お題:出来損ないの俺)
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