第11話僧院ヒナルート8

 集合時間に他のメンバーと合流した奏介とヒナは一先ずプールへ向かうことにした。

「あんた達、午前中にデートでもしてたの?」

 歩いて移動中に何気なくわかばに聞かれ、ヒナはびくっと肩を揺らした。

「え、いや。デートとかじゃなくて、いつもの相談ていうか」

「ふーん?」

「ひーちゃんてば顔を赤くするからバレちゃうんだよ?」

 詩音が言うと、

 ヒナは頬に両手を当てる。

「え……奏介君、ボク赤い!?」

「まあ、見て分かるくらいには」

「! ち、違うんだって。このところ色々あって……。あーもう」

 ヒナは諦めて、見合いの話や奏介に偽恋人を頼んでいることを皆にカミングアウトした。

「ヒナ、苦労してるのね……」

 モモが言って、

「しかし、酷い話だね。今時ガチガチの政略結婚かい?」

 水果が眉を寄せる。

「確かにそれなら恋人役は必要かもなぁ」

 真崎が奏介を見る。

「今までのことを考えると、菅谷は適任だな」

「まぁ、ヒナに頼まれたからね」

「じゃあ、わたし達のことは気にせず、手を繋いだらどうかな?」

「そ、それは良いよ。皆と歩いてる時にそんなことしてたら超バカっプルじゃん……」

 ヒナが弱々しく言って、

「とにかく、今日はプールを楽しむだけで良いから」

ドーム型の温水プールの入り口は賑わっていた。ここのところ暑い日が続いているので考えることは皆同じのようだ。

 チケットを買って入場し、更衣室で着替え、シャワーの前で合流する。

「お、華やかだな」

 一緒にいた真崎が女子メンバーに視線を送る。

「どう?」

 詩音が奏介と真崎に問う。

「皆似合うな。てか、橋間にしては大胆だよな」

「! 良いじゃない。急だったからちょっと水着これしかなくて。中学生の頃に調子に乗って買ったのよ」

 完全なビキニである。

「針ケ谷君、わたしはー?」

 詩音はワンピースタイプのフリル付き水着なのだが、

「……もうなんか幼稚園生って感じだな」

「!?」

 奏介はモモと水果を見る。

「色とか形がぴったりだね、二人とも」

「はは、そうかい?」

「……ありがと」

 水果はスポーティな印象のタンクトップビキニのショートパンツタイプ、モモはワンピースでスカート風になっている。

「それで、どうなんだい? 仮恋人の水着は」

 当たり前だが、一緒に選んだ水着だった。首からスマホが入った防水ケースを下げている。

 ヒナは苦笑を浮かべていた。

「あはは、奏介君は見たことあるし」

「試着室で見たときより似合ってるよ」

「へ?」

 ヒナはまたしても顔を赤くした。

「うう、まさかそう来るとは。不意打ち」

 ヒナは口元を押え、視線をそらした。

「さて、とりあえず流れるプールでも行く?」

 詩音の意見に反対派はいなかったので、そろってプールへ。プールへ入るための階段を下りて、流れに乗ろうとした時。

「わっととっ」

 ヒナは流されそうになり、奏介に抱き止められた。

「大丈夫か?」

「うん、流れ強いね」

 と、詩音と真崎が横を抜けて流されて行く。

「新婚さんごゆっくりぃ~」

「先行くぞ」

 続いてわかば、モモ、水果。

 ヒナははっとする。

「ちょっ、誰が新婚さんだぁっ!」

「いや、しおの思うつぼだぞ」

 完全にからかわれているのだ。

 波が起こるプールやスライダーなどを楽しんだ後、夕飯にしようということになった。時刻は五時半になる。

 フードコートで買ってきた飲み物や食べ物を設置されたテーブルに置く。

「あれ? 二つ足りないよね?」

 詩音が首を傾げる。飲み物が五個しかないようだ。

「すぐそこだから、ボク買ってくるね」

「あ、ヒナ、俺も」

 奏介がそう言ったものの、走り出してしまったので、

「大丈夫だよ、待ってて」

 そのまま一人で行くことにした。

「てか、トイレ寄って行こうかな」

 細い抜け道、通路に入った時、腕を掴まれて、強く引かれた。

「わっ!?」

 引き込まれたのは鍵がかかっているはずの物置のようだ。

 引かれた勢いで、尻餅をついてしまう。

「いったたた」

 ドアがしまる音、見上げると、

「……来栖、さん」

 海パンに長袖パーカーを羽織った来栖が立っていたのだ。

「君は僕の婚約者なんだ。他の男とイチャつくのはいけないことだと、分からせてやるよ」

 ヒナは首から下げて防水ケースに入れていたスマホに手を置いた。

 そして、思う。


ーやっぱり来たー

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