第2話僧院ヒナルート2

 ヒナと一緒に入った駅ビルのカフェ、というより喫茶店にて。

 クラシックが流れてるやや薄暗い店内にて、二人は向かいあって座った。

「なんか目茶苦茶雰囲気良いよね。レトロ喫茶?」

「ああ、俺も初めて入った」

 奏介も物珍しげに辺りを見回す。

 そうしていると、ヒナがさっそくメニューを開いた。

「あっ、クリームソーダがある。へぇ、最近、あんまり見かけないよね。ボクこれにしよっと」

 鮮やかな色のメロンソーダにアイスクリームとさくらんぼが乗っているものである。

「じゃあ、俺はアイスコーヒー。ヒナ、甘いものとかいるか?」

 ヒナはきょとんとする。

「なんで?」

「まぁ……」

 明るく振る舞ってはいるが、元気がないように感じた。連続するお見合いで疲れているのかもしれない。奏介は少し考えて、

「久々に会ったし、奢ってやるよ」

「! マジですか」

 ヒナの表情が輝いた。ぱっと笑顔になる。

「やったぁ。奏介君、高校の頃からアルバイターしてたもんねー」

「あ」

 と、そこで奏介は気づく。

「どうしたの?」

「いや、ヒナに奢るって言うのは失礼かなと思って」

 目の前にいるのは会社社長の令嬢である。

「あはは。そんなことないよ。君が奢ってくれるから嬉しいんだし。ていうか、ボクのお小遣い、みんなと変わらない額ですから!」

 真相は謎だが、あまり贅沢はしていないらしい。

 ヒナの前に運ばれてきたのはクリームソーダとチョコパフェだった。

「あー、夢みたいな光景。そして、地獄のカロリー」

 憂鬱そうに言いながらもパフェを一口。

「んー、めちゃ甘」

 なんとも嬉しそうである。少しほっとした。と、ヒナが奏介の顔を見た。

「ねぇ、夏休みさ、一緒に海行かない?」

「ん? 良いけど、二人で?」

 ヒナはぽかんとした。

「あっ、いやっ」

 やや頬が赤くなる。

「皆でだよ。ごめん、言葉が足りなかった。パフェに語彙力奪われてたよ」

 言い訳のごとく捲し立てるが、奏介も奏介で自分の聞き方に恥ずかしさを覚えていた。

(いきなり二人で? はなかったな)

 お互い、視線をそらす。

「も、もちろん、二人でも良いんだけどさ。やっぱり皆一緒の方が賑やかで思い出に残るよね」

「ああ、そうかもな」

 雑談をしながらパフェを食べ終えたヒナは、はっとした様子で口を半開きにする。

「どうした?」

 奏介が聞くと、ヒナは頭に手をやった。

「いやぁ、水着新しいの買おうかなーって。いや、違うんだよ。去年のはちょっと縮んだと思うの。だから新しいのを買い直そうかなって」

「あー……。そうか。良いんじゃないか」

 触れない方が良さそうだ。

「なら、これから見に行くか? 駅ビルで水着フェアやってたし」

「うそ!? 季節先取りだね。何何、付き合ってくれるの?」

「ああ、ついでだしね」

「ほんと? ふふ、ボクの水着姿を披露しちゃおうかな。言っておくけど、水着が縮んだんだから、ボク自身は何も変わってないんだからね?」

「わかったわかった」

 


 喫茶店を出てから水着フェアに行くことになった。

 その前にと、ヒナはお手洗いに行ったのだが、すれ違った若い女性達の気になる会話を耳にした。

「じゃあ、映画まで男にご飯奢らせよ」

「その辺で引っ掛けよっかー。ぼっちで大人しそうな奴ね」

 ヒナは嫌な予感がしながらもトイレを済ませ、奏介の元へ戻ろうとしたのだが、

「あちゃー……」

 案の定、先程の女性達に絡まれていた。

「もぉ、奏介君たらまったく」

 普通に対応しているが、ノリと勢いで逆ナンされそうな雰囲気だ。

 ヒナは小さな鏡で自分の身だしなみを確認し、小走りを始めた。

「奏介くーん」

 手を振りながら三人に近づいて、笑顔で奏介の腕に手を回す。

「お待たせっ、行こっか?」

 女性二人組が顔を引きつらせる。

「え……彼女?」

「うっそ」

 奏介はヒナの様子に目を瞬かせたものの、

「すみません、そういうわけなので」

 呆然とする彼女らの前から歩き出した。

 声が聞こえる。

「マジ? オタクのくせにあんな可愛い子が彼女?」

「え~……。なんか力抜ける」

 聞き耳を立てながらヒナはご機嫌である。

「ふんふんふーん」

「ありがとな。なんか、いきなり声かけられて」

「うん、知ってる。君ってばほんとに変なの引き寄せるよねー」

「ヒナ」

「ん?」

「腕」

 ヒナは不思議そうにした後、慌てて奏介から離れた。

「ごめんっ、つい」

「いや、嫌とかじゃないから」

 しばし、目線を合わせる。

「……い、行こうか?」

「ああ、そうだな」

 いざ、水着フェア会場へ。

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