第3話僧院ヒナルート3

 水着フェア会場は予想以上の盛況のようだった。『夏を先取り!』というのがキャッチコピーらしい。

「おー……。夏にはまだ早いんだけどさ、この時期なら選り取りみどりなんだよね。夏になってからじゃ余り物しかないから」

「へぇ、そうなのか」

「水着買うなんて何年ぶりだろ? 確か……あっ!?」

「どうした?」

「嫌なこと思い出したー。去年まで着てたやつ、和真と一緒に選んだ奴だったんだよ。なんで二年も着てたんだろ」

「なんか、恋人同士って感じのエピソードだな」

「やめてよ、マジでキモイ……!」

 表情を歪めるほど嫌らしい。

 ヒナは水着に目を通し始めた。

「んー……」

「ヒナ」

「ん? どうしたの?」

 振り返って笑む。

「あいつが変わらなかったら、まだ好きだった自信、あるのか?」

「……そんなのわかんないよ」

 浮かない表情をするヒナ、奏介は息を吐いた。

「今回は、俺が一緒に選んでやろうか?」

「へ?」

「あいつが選んだの、嫌なんだろ? ……次は本物の恋人に選んでもらえよ」

 ヒナはぼんやりと奏介を見、ふっと顔をそらした。

「き、君が選んでくれるの? それはなんていうか、う、嬉しいかも」

「俺で悪いけどな」

「そ、そんなことないからっ」

 様子がおかしいヒナを連れて、水着フェア会場内へ。

「これ! どうかな」

 いきなり見せてきたのはタンクトップビキニだった。上が赤とオレンジの水玉模様、下が白のショートパンツである。

「うーん」

 奏介は唸った。

「色自体は良いんだけどな」

「あれ、不評?」

 奏介は周辺を探して、一つの水着を手に取った。同じくタンクトップビキニで水色と白のグラデーションになっている。

「ヒナにはこういう方が良いと思うけど」

「わ、綺麗。に、似合うかな?」

「気になるなら試着するか?」

「するする! 誰よりも先にボクの水着姿を見せてあげるよ」

 ヒナはそれを持って、試着室へと入って行った。

 しばらくして、カーテンがシャッと音を立てて開く。

「ふふん、どう?」

「!」

 ヒナに似合いそうな色で選んで見たのだが、よく似合っている。そして、約一年前の水着姿より、ほんの少し成長しているというか。

「ああ、良いんじゃないか」

 微妙に視線をそらす。

「今見惚れた!? やった、ボクの勝ちー」

「なんの勝負だよ」

「奏介君も男の子だねぇ。でもでも、センス良いよね。さすが、わわっ」

 自分の体を見回していたせいか、ヒナがよろける。

「おい」

 こちら側へ倒れそうになったので、奏介はとっさに自分の腕で受け止めた。

「あ……」

「!?」

 一瞬とはいえ、抱き合う形に。

「わーっ、ごめん。ひぇえ、こんな格好で恥ずかしっ」

 試着室へと戻ってカーテンを閉めた。

「ちょっと落ち着けよ」

「あはー。なんかテンション上がっちゃって。待ってて、着替えるから」

 どうやら決めたらしい。

 と、奏介は後ろを振り返った。

「……?」

 誰かの視線を感じたような気がした。

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