見た目いじめられっ子の俺は喧嘩売られたので反抗してみたifラブコメ各ルートまとめ

たかしろひと

第1話僧院ヒナルート1

 大学一年生の菅谷奏介(すがやそうすけ)は、帰宅途中に見覚えのある顔を見つけた。歩道に立つ女子は車道の脇に停まった車の人物と会話をしている。向こうは男性のようで窓を開けている。

 しばらくして、車は走り去り、それに向かって手を振る彼女と目があった。

「あ」

「あれ?」

 高校の同級生であり、別の学校へ行った僧院(そういん)ヒナだった。久々に顔を見た気がする。

「おー、菅谷くんだ! 久しぶりだね。卒業式以来だから二ヶ月振り? 中々会わなくなっちゃったしね」

 高校時代と変わらない、ふわふわのロングヘアで、ブラウスにショートパンツ姿だ。

「ああ。同窓会、夏休みにしおが企画してるみたいだけどな」

「そうなの!? うわ、楽しみだなぁ。そのしおちゃんは? 同じ大学だったよね?」

 奏介の後ろを覗き込むヒナである。

 伊崎詩音は奏介の幼馴染みである。

「サークル三つくらい掛け持ちしてるから、忙しいんだってさ」

「はぁ、アクティブだなぁ。ちなみにボクは水泳サークルに入ったんだ」

「へぇ、泳ぎ……得意だったか?」

 プールや海に一緒に行ったことはあるが、印象がない。カナヅチではないことは知っている。

「いやぁ、あんまりやったことないことに挑戦しようと思ってね。それ関係で探してるものがあって、スポーツショップに向かってたらさっきのあれだよ。せっかく楽しい気分だったのにさ」

 頬を膨らませるヒナ。

「さっきのって」

「うん、一度会ったお見合いした 相手。大手レトルト食品会社の御曹司。もう恋人気取りだよ。馴れ馴れしいの。まーたお父さんが見つけて来てさ。どうしても政略結婚させたいんだろうね。せっかく殿山兄弟から逃げられたのに、お金持ちのボンボンとかもう嫌なんだけど? わがままで自信過剰な奴が多いし」

 僧院家はいわゆるお金持ちで、彼女はまごうことなきお嬢様である。幼い頃から婚約者がいるのが当たり前の世界なのだろうか。

「……それは大変だな……」

「ねぇねぇ、菅谷くんてさ、幼馴染みのしおちゃんと結婚の約束とかしたことある?」

「は?」

 ヒナはニヤニヤと笑う。

「一回くらいあるでしょ?」

 奏介はしばらく考え込む。

「……いや、ない……あ、そういえばお互いに子供が生まれたら、結婚させようね、とか言われたことはあった」

 ヒナはぽかんとする。

「何、何? どういうこと?」

「あいつ、ちょっと変わってるところあるからね。『奏ちゃんは女の子ね! わたしは男の子が良いな』とか言ってたけど」

「はー、今度なんでそういう結論に至ったのか聞いてみようかな」

「多分不思議な理由だぞ」

「あはは、なるほど。……それにしても、『奏ちゃん』かぁ」

「ん?」

「いや、しおちゃんは特別だよね。菅谷くんを名前で呼んでる人、ほとんどいないでしょ? 羨ましいなぁって」

 ヒナは少し寂しそうな顔をする。

「ボクさ、高校一年生までは将来、和真と一緒になるのが当たり前だと思ってたんだよね。小さい頃、お互いにずっと一緒だよって約束したから。でもあのクズは変わっちゃって、ボクしか覚えてないんだと思う。それに比べて菅谷くん達はほんと仲良くて、さ」

 奏介はヒナの横顔から視線をそらした。すぐにかける言葉が見つからない。

 殿山和真というのはヒナの許嫁だった先輩だ。ヒナを中傷したばかりか同学年女子と浮気をし、体の関係を持っていた。言い逃れが出来ないクズ男である。

「……別に名前で呼んでも良いけど」

「へ?」

 驚いたように顔を上げるヒナ。

「いや、あの浮気野郎のことはどうしようもないけど、僧院が名前呼びが良いなら」

「うぇ、ほんと? あ、じゃ、じゃあ……そ……奏介、くん?」

 奏介は顔を引きつらせた。

「えっ、え!? 嫌だった?」

「そうじゃなくて、結構照れるなと思って。ずっと苗字呼びだったし」

「や、やめてよっ、ボクもなんか恥ずかしくなってきたじゃん。あー、もう。だったら奏介くんもボクのことは名前で呼んでよっ」

「え、それは良いのか?」

「も、もちろん、ちょっと恥ずかしさで過呼吸になりそうだけど」

「……ヒナが良いなら」

「!! あ、あはは。これは慣れだね。うんうん」

 顔が真っ赤である。

 と、ヒナのスマホに着信が。

「ん? お父さん?」

 どうやらメッセージらしい。

「げっ」

 とんでもなく嫌そうな顔をする。

「どうした?」

「またお見合い相手見つけてきたって。はぁ……。奏介くん、この後暇? お茶でもしない?」

「良いけど、スポーツショップは?」

「新入生の部員で行きたいって言ってた子がいたから明日にでも誘って行くよ」

 と、信号待ちをしていると、後ろに気配が立った。

「ん?」

「やぁ、ヒナさん」

 スーツ姿の若い男性が立っていた。中々の爽やかイケメンである。

「……来栖さん……」

「急いで車を置いてきたんだ。これから食事でもどうかな?」

 来栖と呼ばれた男はちらりと奏介を見る。

「そんな一般人の貧乏人と付き合うのはやめた方が良い。君の価値が下がってしまうよ」

 奏介はぴくりと眉を動かした。

「ヒナとは高校の頃からの友人です。ただのお見合い相手のあなたがヒナの友人関係にどうこう言う資格ないでしょう。来栖食品会社の息子さんでしたっけ? 俺も買ったことあるんであなたにとっては客でしょ? レトルト食品は一般の人も買うし、そのお金で会社が成り立ってるのに客にバカにしたような態度とっていいんですか?」

「なっ……!」

「商品は凄く美味しいのに、程度が低い会社のようですね」

「えーと、来栖さん、今友達と話をしてるので食事は後日でお願いします。私は友人関係も大事にしたいので、今日はお引き取り下さい」

 ヒナが言うと、来栖はぎろりと奏介を睨んで、

「ヒナさん、また改めて」

 去って行った。

「ヒナ、あいつは殿山と同レベルだからオススメしないぞ」

「うん、分かってる。……それにしてもさすが奏介君」

 苦笑気味のヒナである。

 二人揃って、カフェへ向かうことにした。

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