第31話 思い出と前進
僕は後日、改めて僕自身についての話を新堂先生と北野さんから聞いた。学校生活のことで精神を壊して入院したこと、僕は一年間も前から入院してること、僕が病院を学校と思い込んでいたこと、そして春陽、いや、僕の病室に迷い込んだ猫の事を。
北野さんは僕の事をだいぶ心配してくれて、僕はその度に「大丈夫ですよ」と笑った。北野さんは僕が笑う姿を見て、よかったよかったと泣いていた。
「北野さんが毎日話しかけてくれていたことを、夢で見ていました。ずっと肝心な所だけ聞き取れなかったけど。」
そう言うと、北野さんは、
「夢でも届いていたなら良かった。」
と言って泣き笑った。
そして、両親が見舞いに来た。3ヶ月に一回面談に来ていてくれていたようで、こうしてちゃんと話せたのは一年ぶりで、両親の顔なんか久しぶりに見た。母さんは安堵からか泣いていて、父さんはよかったと頭を撫でてくれた。そして、いじめの事に気づいてやれなくてすまなかった、と謝られた。僕はいいんだ、と言ったものの胸の奥では懐かしい思いになっていた。僕は一人ではなかった、こんなにも思ってくれている人がいたのにどうして忘れていたんだろうか。どうして頼れなかったんだろうか。
僕はあいも変わらずスケッチブックを手放さず、絵を描くのをやめなかった。変わったことといえば、それを北野さんや新堂先生に見せる事が増えた事だ。よく褒めてくれるし、時々モデルもしてくれる。精密検査やカウンセラーなども少しずつ受け始めて、心のケアをしていった。
ちょっとずつだけど僕は前に進み始めた。
でも僕は時々スケッチブックを遡る。
人の目を引く美形。二重のぱっちりした目に、綺麗な鼻筋、サラサラの髪に、スラッとした体。すれ違う誰もが、一度は振り返るような、そんな美しさ。それは間違いなく____あの猫だ。
僕は時々あの日描いていた絵を見る。病棟内の猫の噂は聞いたが、それが春陽だったと言われてもあまりピンとは来なかった。でも僕は春陽との日々を忘れてはいない。忘れることができなかった。あのスケッチした毎日は、確かに幸せだった。今となってはもう懐かしい記憶だけど。
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