第28話 別れ
病室からは、深春君の話し声がしていた。
「今の、今までの春陽との時間がってこと?」
どうやら猫と話をしているようだ。しばらく、静寂が続いて新堂先生が腕時計を見た。
「...行こうか。」
そう言うと、新堂先生はドアを強くノックして、ずかずかと病室に入っていった。私も続いて病室に入る。そこにはベットに座ってスケッチブックを持った深春君と、椅子の上にお利口に座っている猫が驚いたようにこっちを見ていた。私はすかさず春陽君の近くに行って、いつでも押さえられるように待機した。
新堂先生は挨拶もなしに、椅子に座っている猫を優しく抱き上げた。それを見てすかさず深春君が立ち上がり、
「ちょっと、そんな雑な扱い、あんまりじゃないですか。」
と、講義の声を上げる。新堂先生は深春君の声など聞こえてもいないといった顔をした。猫は、観念したように項垂れている。
「あなた達、本当になんなんですか…。」
深春君は新堂先生を睨みつけた。が、新堂先生は
堂々とした態度で深春君に言い放った。
「もうさよならだ、もうここにはこれないんだ。最後に言いたいことはない?」
深春君はその言葉にショックを受けたのか、しばらく黙っていた。新堂先生は猫を抱えながら、言葉を待っていた。が、いつまで待っても深春君から言葉は出てこなかった。見かねて、新堂先生は「じゃあ行こうか」と猫をつれていこうとした。
そこで深春君が猫を掴んだ。
「ま、待ってください。まだ、話せてないことが、春陽に言いたいことが…まだ…!」
新堂先生は立ちどまる。
「深春くん、時間は沢山あっただろう。僕らも長い間見ないふりをしてきた。でももう終わりなんだ。」
私は深春君の肩を掴んで、「深春君、さあ」と手を離すように促した。すると、深春君はさらに強く猫を掴んだ。
「あなた達が何者なのかはどうでもいい、それよりも何故春陽を連れていくんですか。春陽はなにかの病気なんですか…!?教えてください…!春陽だってこんな別れ望んでない…。」
深春君は新堂先生を懸命に叫んだ。
新堂先生はは深春君に優しい眼差しを向けると、いつもより大分優しい声で呟いた。
「病気なのは、君だよ。深春くん。」
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