第24話 遭遇

次に私がその噂に出くわしたのは、深春君の病室を尋ねた時だった。時間はちょうど17時前で、私は深春君に定期検診の話をするつもりだった。深春君の病室のドアをノックし、ドアを開ける。深春君は何かを真剣に描いていた。そしてその目線の先には、あの猫がいた。私は目眩がした、あれは見間違いなんかではなかったのだと、そう確信せざるおえなかった。深春君は私の存在に気づいておらず、あろうことか猫に話しかけていた。


「ねぇ、春陽。最近変な夢を見るんだよ。」


猫はそっと首を傾げた。どうやら話がわかるらしい。


「僕はベットの上にいてさ、横に女の人がいるの。で、なんか言うんだけどそれが全くわからなくてさ。」


深春君はスケッチブックに描く手を止めないで、話を続ける。


「唯一わかるって言うか、聞き取れるのがさ、深春くん、何回も説明してるんだけど、て、絶対言うんだよ、不思議だよね。一体何を…」


私はおいおいなんて事だ、と思った。「何回も説明してるんだけど、」は私が毎朝深春君に話をする時の最初の言葉じゃないか、と。どうやらあれは深春君にとっては夢らしい。私は少し落胆した。すると猫は深春君のベットにスっと、飛び乗り深春君の目をじっとみた。


「え、何を…?」


「気付いた、ってどういうこと?まさか春陽もこんな風な夢を見たの、?」


深春君は、猫に向かって真剣に喋っている。私には脈絡がよくわからなかった。だが話は直ぐに終わったようで、


「いや、いいんだ。僕の夢を春陽が知るわけないし、僕が勝手に期待しただけだから。」


と、言うとまたスケッチに戻ってしまった。その時17時のチャイムが病棟内に響き渡った。私は、直感的に今は話かけてはいけないと思い、そのまま扉をゆっくり閉じた。



その事を新堂先生に報告すると、新堂先生は考え込むような仕草をした。


「なるほど、深春はその猫に話しかけている。まるで人間に話しかけているかのように。学校の同級生とでも思っているのか…?」


「さあ、私には何も…。」


「でも猫を「はるひ」って呼んだんだろ?」


「…はい。」


「はるひっていう同級生と見間違えてるのか?」


新堂先生はますます頭を悩ませていた。

この頃は、この噂も病棟内では有名になっていた。看護師達は見つけたらすぐ捕まえるように指示され、患者さん達は見れたらラッキーなんて言っているらしい。私は再度、深春君とあの猫の関係性について考えていた。友達か?クラスメイトか?それともモデルか?考えれば考えるほどわからなくなっていった。

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