第21話 新堂先生

ナースステーションに戻ると、新堂先生が私の報告を待っていた。新堂先生はまだ若い先生で、30代前半くらいだ。背はまあまあ高く、短髪の黒髪でぱっと見の印象は爽やかな人。仕事も早くて、患者さんへの情も厚い。何だって毎日朝に、深春君の様子を聞きにくるぐらいなのだから。新任の私にも優しい、とても良い人だ。私は血圧計を置いて、新堂先生の元へ向かった。


「おはようございます、新堂先生。」


「おはよう、北野。」


軽い挨拶もそこそこに、新堂先生は私に尋ねた。


「深春君の調子は、どうだった?」


「体調や血圧に問題はありませんでした。様子もいつもと変化はありません。」


そう告げると、新堂先生は「そうか…」とだけ返事をして、少し考える仕草を見せた。私は指示を待つ。


「もし、部屋から出たらどんな絵を描いたとか、気分はどうかとかを聞いてもらえるか?」


新堂先生は悩んだ末に私にそう指示を出した。私は「分かりました」と頷いた。新堂先生は、「よろしく頼んだ」と言って、外来に帰っていった。

私が担当になってから、ほぼ毎日がこんな感じだった。深春君は基本部屋にいるけれど、時々絵を描くためにロビーに出る時もある。そういう時は、どんな絵を描いたのか、気分が悪くないかなどを聞く。それが彼に聞こえているのかは、私たちには判断できないけれど。とにかく彼を妄想の世界から、こっちの世界に戻してあげることが今の課題だ。私はその為に彼に毎日説明をするし、話しかけている。いつか妄想の世界から、帰ってきてくれると信じて。


 そんな1年も変わらなかった彼の病状が、一気に変わったのはとある些細な噂がきっかけだった。

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