第18話 春陽の想い
春陽は僕の方に手を伸ばしているが、僕のと距離はますます空いていくばかりだ。その時僕は、春陽が泣いているのに気づいた。春陽は医者に縋りついて
「お願いします、少しだけ、少しだけ待って下さい。」
と、懇願した。医者は泣いてる姿を見てなのか、引っ張るのを辞めた。春陽はこちらに向かって叫んだ。
「あなたを遠くからずっと見てた。どうしても貴方に会いたくて、貴方の病室に迷い込んだ。」
春陽は、涙も拭うこともせずに続けた。
「貴方に絵を描いて貰えて嬉しかった、ありがとう。あんなに私を描いてくれて、私を綺麗だと、言ってくれて。」
春陽は叫んだのが影響してか、ごほごほと咳き込んだ。医者はそれを合図に「良かったな、猫」と言って、また春陽を引きずった。春陽は、それに負けじと絶えず叫んだ。
「私は貴方が好き、これからもあなたを見ているから、だから、しっかり生きて欲しいの!!」
医者は春陽をドアまで引きずって、そのままどこかに連れていこうとした。春陽は髪を振り乱して、泣き叫んだ。
「深春…!!!!」
それを最後に、春陽は美術室から連れ去られてしまった。僕は頬に暖かいものが伝っているのを感じた。僕達はどうして引き離されてしまわなければならなかったのだろうか。病気なのは僕の方とはどういうことなのだろうか、春陽は何を知っていて何を隠していたんだ。僕はどうして何も気づけなかったんだ。どうして僕は最後に春陽に、何も言うことが出来なかったんだろう。僕は感情のままに、涙を流した。泣き叫んだ。でもいくら涙を流しても、春陽に「好き、」のひとつも返してやれなかった後悔は消えなかった。今更になって、春陽の思いを知って、何も出来なかった。何も言えなかった。僕は、まだ近くにいて欲しい思いで、声よ届けと体の全ての力を込めて、叫んだ。
「春陽!!!!!」
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