第17話 君の名を叫ぶ
「あなた、昨日から本当になんなんですか…?」
僕が睨むと、医者はやっと僕に気づいたように、こちらを見た。
「もうさよならだ、春陽はもうここには来れない。最後に言いたいことはないか?」
僕はその言葉に感情は揺さぶられた。言いたいこと…?そんなのは沢山ある。もう夢の話はいいから。春陽が何かを隠していたとしてもそれももうどうでもいいから。それより春陽と、たわいもない話したいんだと僕は今更になって気づいてしまった。本当に、今更だ。僕が気持ちに整理がつかず、何から話せばいいのか分からず黙っていると、医者はそれを「何も言いたいことがない」と解釈したのか、
「じゃあ行こうか」
と言って春陽の手を引いた。僕は思わず、春陽の手首を掴んだ。
「ま、待ってください。まだ、話せてないことが、春陽に言いたいことが…まだ…あるんです。」
そう叫ぶと医者は、立ち止まって言った。
「深春くん、時間は沢山あっただろう。僕らも長い間見ないふりをしてきた。でももう終わりなんだ。いや、終わりにするんだ。」
医者が僕の後ろを見ると、いつの間にか一人の看護師が僕の後ろにいた。看護師は
「深春くん、さぁ」
と僕を春陽から遠ざけようとする。僕は春陽の手首をさらに強く握った。
「あなた達が何者なのかはどうでもいい、それよりも何故春陽を連れていくんですか。春陽はなにかの病気なんですか…!?教えてください…!春陽だってこんな別れ望んでない…。」
そう叫ぶと医者は、物珍しそうな顔をした。僕がその顔に困惑していると、医者は気持ち悪いほど優しい声で、僕に笑って告げた。
「病気なのは、君だよ。深春くん。」
予想もしていなかった言葉に、目の前が真っ白になった。それぐらいの衝撃だった。僕が何かを言い返す前に医者は僕を哀れんだ目で見た。僕がその発言に固まっていたその瞬間、医者は強い力で春陽を引っ張った。その勢いで僕は春陽を離してしまった。春陽はその時初めて痛切な声で「深春!!」と叫んだ。僕はその姿を見て、この医者は春陽と僕を引き離そうとしているんだと確信した。僕はもう一度春陽の手を掴もうと腕を伸ばした。が、後ろにいた看護師が僕の両腕を掴む。
「なんで…、離してくれ…!春陽が…!!」
看護師は「深春くん」と言って僕をなだめようとする。僕は力づくで掴まれた手を振り放そうとしたけれど、看護師達は僕が抵抗すればするほど強く、僕を離さなかった。その間にも春陽は医者に連れていかれそうになっていた。僕は力の限り叫んだ。
「春陽!!!」
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