幸せの亀裂

第16話 終わりの言葉

パッと目が覚めた。美術室のドアの前に立っていた。どうやってここまで来たか、思い出せなかったがそんなことはどうでもよかった。それよりも春陽が待ってる。早く行かないと。僕は勢いよくドアを開けた。美術室の窓側、いつもと変わらず、春陽は椅子に座っていた。僕は安心して、部屋に入り、春陽の目の前に座った。


「春陽、今日もよろしくね」


春陽は今日は窓の外を見ないで、僕をまっすぐ見ていた。僕は相変わらず綺麗だと感心した。僕はスケッチブックを手に取るのも忘れて、見惚れていた。春陽は僕をじっと見て、口を開いた。


「深春、話がある。」


僕はすぐに頷いた。


「珍しいね、何?」


春陽は申し訳なさそうな顔をしながら、告げた。


「もうここには、来られなくなる。」


僕は動揺なんてしなかった。少し驚いたが、むしろ、いつ言ってくるかと思ってたぐらいだ。春陽みたいな美人が、こんな僕なんかにいつまでも付き合ってくれるはずないんだから。僕は無理矢理頬を吊り上げて、笑った。


「そう、残念だよ。」


春陽はこくりと頷いた。僕はなるべく穏やかに春陽に聞いた。


「最後に聞きたいことがある」


「何、?」


春陽は真っ直ぐ僕を見つめた。


「春陽は僕の夢について何を知ってるの。」


春陽はそれを聞いて少し俯いたけど、すぐに正面を向いて答えた。


「深春、これが夢。」


春陽が冗談を言う訳もない。僕は首を傾げた。


「今の、今までの春陽との時間がってこと?」


春陽はゆっくりと首を振った。


「違う、あなたが見ているもの全てが。」


僕は考えた。それは一体どこまでなんだろうかと。

春陽との時間だけじゃないって事は、僕の存在自体が夢だとでも言うのだろうか。僕には春陽の言葉がまるで理解出来なかった。が、春陽は言葉を続けた。


「でも、あなたが描いた絵。それだけは本物だから、信じていいよ。」


春陽はそう、断言した。僕がその言葉に「そうか」と返事をする前に、ノックオンが響いてドアが開かれる音がした。そこには、昨日の白衣を着た医者と、病院の看護師のような人が立ち往生をしていた。春陽はそちらを見て、息を飲んだ。僕もその光景に息が止まる感覚だった。医者はずかずかと美術室に入ってくると、昨日のように強引に春陽の腕を引っ張って立たせた。その雑な扱いに僕は思わず立ち上がって、

「ちょっと、そんな雑な扱い、あんまりじゃないですか。」


と医者に向かって言ったが、医者は僕の声など聞こえてもいない様だった。春陽は医者に立たされても、項垂れて僕を見ているだけだった。

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