第12話 夢の隠し事
「ねぇ、春陽。最近変な夢を見るんだよ。」
彼女はこちらに目線を移して、少し首を傾げた。僕は自分を嘲笑うようにして見せて、笑った。
「僕はベットの上にいてさ、横に女の人がいるの。で、何か言うんだけどそれが全くわからなくて。」
春陽は興味があるのかないのかよく分からない顔をして聞いている。僕は構わず続けた。
「唯一わかるって言うか、聞き取れるのがさ、深春くん、何回も説明してるんだけど、て、絶対言うんだよ、不思議だよね。一体何を…」
そう言ったところで、誰かの手が僕のスケッチする手を止めた。この部屋には春陽と僕しかいないのだから、なら僕の手を止める人は春陽しかいなかった。春陽は僕の手に白くて冬季の様な自分の手を重ねていた。僕と春陽の距離は実に近くて、春陽は僕の顔を伺うようにじっと見つめていた。僕は近い距離にびっくりして声もあげられず固まっていた。すると、春陽が喋りだした。
「深春、気付いたの?」
「...え、一体何に…?」
「深春、もう気付いてる?」
春陽ははっきりと何度も繰り返した。僕は何の事だかわからなくて、聞き返した。
「気付いた、ってどういうこと?まさか春陽も似たような夢を見たの、?」
春陽も同じ夢を見ている可能性に、僕の気持ちは急激に舞い上がった。一人で抱えていた悩みを、誰かと、それもまさか春陽と共有できるなんて、それだけで嬉しい。だけど、その考えはハズレだった。春陽は何かに気づいた顔をして、すぐに首を振った。今までの言動を取り繕うように、
「ごめんなさい、私は何も知らない。」
と、謝った。春陽の動揺の仕方に僕もすぐ、
「いや、いいんだ。僕の夢を春陽が知るわけないし、僕が勝手に期待しただけだから。」
と謝った。春陽の言葉は不思議だが、きっと何かと勘違いでもしたのだろう、と思い込むことにした。これ以上春陽を困らせてはいけない。僕は無理やり自分を納得させた。春陽が気まずくないように、
「ごめん、スケッチ中に変な話して」
と強引にこの話を終わらせた。僕は何もなかったふりをして、スケッチに戻った。春陽もその空気を察してか、席に戻りまたポーズを取った。僕はさっきまで描いていた顔の続きを描き始めた。だが何度も見ても、春陽の顔は先程とは打って変わってずっと曇っていた。スケッチの紙に描かれている顔も不安げな顔になっているのを感じながら、僕はそれを無視してただひたすらに描き続けた。
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