第10話 ギラギラ
次の日も春陽はそこに座っていた。
僕は彼女の前に座り、スケッチブックを開いた。鉛筆を取り出して、また春陽を描いていく。外から見れば、僕はいつもと変わらないように見えただろうが、心はとても普通じゃなかった。昨日の春陽がずっと気にかかっていたからだ。帰る家がない野良猫みたいだ、冗談のつもりで言ったそれを、春陽は否定しなかった。春陽は一体何を思って頷いたのだろうか。僕は至って平静を装いながら、春陽に喋りかけた。
「ねえ、春陽。」
春陽は動かない、こちらも見ない。僕は続けた。
「春陽はさ、猫みたいだよね。」
そういうと、春陽は反射的に、もしくは何かに気づいたようにこちらを見た。僕はあえてスケッチブックから目を離さずに続けた。
「なんか自由奔放だし、気ままだし。なのにちゃんとプライドがあってさ、気高い感じ学校でも高値の花って感じだし。」
珍しく春陽の視線が痛く突き刺さる。僕は気まずさを感じながら、春陽に尋ねた。
「ねえ、春陽はさ、帰る家があるんだよね。......いやあ、なんか野良猫にも似てる感じがしてさ。」
と、言いながら顔をあげた先で、春陽は首を横に振っていた。どうやら昨日のあれは見間違いではなかったようだ。僕は手を止めて春陽を見た。春陽の目は今までにない程、猫のようにギラギラとしていた。僕はその目に飲み込まれてしまいそうだと思った。
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