第5話 スケッチ開始

「えーっと、じゃあ改めて、春陽さん。早速スケッチを始めるけど、いい?」


春陽はこくりと頷いて、窓際を見た。僕もそのポーズに不満はなかったので、そのままスケッチを始めた。


まずはアタリを描く。大まかな下書きといえばわかりやすいだろう。今回は椅子に座って窓を眺めているので、軽い背景も書き込む。そうして大体の下書きが出来たら、次に体の構図を描きこむ。春陽は女なので、女性らしい柔らかな曲線を意識して描いていく。肩幅は小さく、でも引き締まっている体は意識してけして小柄な少女のようにはならないように気をつける。春陽の体はいい意味で、引き締まっていて程よい肉付きをした体だ。決して痩せ細ってもいないし、太りすぎてもいない。誰が見ても美しいと見惚れる体だ。僕はその春陽の体の良さを決して見損なわないようにしながら、丁寧に鉛筆をすすめていった。こんなに丁寧に鉛筆をすすめたのは、美術館で見た銅像をスケッチした以来だったと思った。顔だけじゃなく、体まで美しいモデルは春陽が久しぶりだ。僕は目の前にいるモデルが最高級のものなんだと思い、身が震える思いがした。僕は春陽の体を舐めるように見ていることを自覚していたが、春陽は相変わらず窓際を見てぼんやりとしていた。僕はそれをいいことにさらに筆を進めた。体の構図がある程度描き終わったら、いよいよ顔を描いていく。さっきも言ったが、彼女は人の目を引く美形だ。二重のぱっちりした目に、綺麗な鼻筋、潤いのある唇に、透き通った白い肌。僕は鉛筆で表現できるのかと不安になったが、それでも描き進めた。より丁寧に、より綺麗に。あまりに描き込むと一時間はゆうに超えそうだったから、僕はパーツの配置だけを意識して描き込んだ。途中近づいてもっと近くで見たくなったけど、僕は顔を描きたいのではないからと気持ちを抑え、描き進めていった。

僕が通っているの高校の女子制服は、県内でも珍しいセーラー服だ。だからか女子生徒は、実年齢より少し顔が幼く見える。無論、そのセーラー服をもってしても、春陽の顔立ちを幼く見せることなどは不可能だったけど。僕はセーラー服の皺から、光の当たり具合、スカートの折り曲がった皺の線まではっきりと描いた。春陽にはそのセーラー服がよく似合っている。だから、描き手としてはセーラー服を春陽の美しさに相応しいものにしたかった。それでさえも春陽の美しさを引き立てる要素なのだから。僕はそうして鉛筆をすすめ、春陽を余すところのないようにスケッチした。

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