第3話 春陽との出会い

春陽との出会いは、一方的だったと思う。

時に廊下で、時に教室の端で、またある時には校庭のど真ん中で、僕は春陽を見つけた。春陽は人の目を引く美形だった。二重のぱっちりした目に、綺麗な鼻筋、サラサラの髪に、スラッとした体。すれ違う誰もが、一度は振り返るような、そんな美しさを持っていた。誰もが美しい春陽と親しくなりたいと、声をかけていた。が、彼女はそれに答えなかった。実際答えている姿を僕は見たことがない。彼女は声をかけられたら、振り向きはしてもその言葉に反応しない。ただ、話を聞いて一通り聞き終わったらうんとも、すんとも言わずにその場を立ち去る。そういう人だった。だけど、僕も人もそれを無愛想だとか釣れない人だとかは、全く思わなかった。それでさえ彼女の性格なのだからと、スッと理解できたのだ。彼女の前では、人の馴れ合いなんて馬鹿馬鹿しいものに感じた。僕はその毅然とした態度を含めた彼女の美しさが、すごく、ものすごく気に入ったのだった。だから、モデルにしたいと思った。今思えば、中身が気に入ってモデルを選んだのは、初めてだったようにも思う。


とある日の昼休み、僕は廊下で彼女とすれ違った時に、

「すみません」

と、声をかけた。彼女は立ち止まって、まんまるい目で僕を見つめた。周りの人はまたあいつだと僕と彼女を盗み見ていた。ぼくはいつもの調子で声をかけた。

「僕、絵を描いてるものなんですが、是非貴方をモデルに絵を描きたいんです。モデルになってくれませんか。」

ドキドキしながらも、落ち着いてそう聞いた。彼女はしばらく考えたようなそぶりを見せて、こくん、と頷いて見せた。OKということだろう。僕は、驚いた。まさか高値の花とも言える春陽がOKを出してくれるとは思わなかったからだ。僕は早口で、

「じゃあ今日の放課後、美術室で待ってます。」

と言って、一礼しその場を後にした。


こんな簡単なやりとりが、彼女との初めてのコミュニケーションだった。もしくは僕の一方的な気持ちが、通じた日とも言える。

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