円匙を持ったおじいさん

 毎年夏になると、ソロキャンプをするのが俺の中で恒例になっていた。

 大金持ちなら、海外旅行にでも行くのになと思いながら、テントを張り、飯盒で作った質素なキャンプ飯を食べ、ゆったりと山を満喫していた。


 川のほとりを散策していると、シャベルを持ったおじいさんが見えた。

 おじいさんは、シャベルで川の脇の斜面を掘っていた。

 膝下まで川に浸かっていることを微塵も気にした様子もなく、黙々と掘っているのが見えた。

 次の日もその次の日も掘り続けていた。


 キャンプ最終日、帰り支度を済ませた後、おじいさんが気になって見に行ってみることにした。

 しかし、そこにおじいさんはいなかった。

 おじいさんが掘っていた場所を覗くと、大きな金属の箱が顔を覗かせていた。

 重たい箱を取り出し、開けてみると、中には古い硬貨が入っていた。

 今じゃ使えないだろうなとガックリと肩を落とした俺は、静かに箱を元の位置に戻し、山を下った。

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