花ノ木 後編

 虚無な時間を断ち切ろうと教室を出た俺は、家でやることも特にないなと思い、中庭を通って帰路に就くことを決めて一階の昇降口を出た。

 中庭に出ると、やはりあの枯れ木は浮いた存在のように感じた。

 他の草木は鮮やかな緑や思い思いの色で飾られているのに対し、あの木だけが色を持っていない。

 枯れ木を眺めていると、明日は月に一度の部活がある日だということを思い出した。

 俺の属する文芸第二部は、部活動に必ず所属しなければならない我が校において、部活動に積極的でない生徒の集まる形だけの部で、建前として明日の感想会があった。

 帰ってやることができたと前を向いた時、新入生だろうか、胸に桜のブローチを着けた華奢な少女と目が合った。

 思わず視線を逸らした俺の目に、小さな青い花を咲かせた木が映った。

 ひらりと舞った青い花びらを目で追うと、再び少女と目が合う。

 少女の肩に乗った青い花びらが、まだ見ぬ春の到来を告げていた。

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