花ノ木 前編
新入生の入学式の日、俺も今日から上級生だという自覚を胸に──というのは嘘で、何とはなしに教室の窓から枯れた木を眺めていた。
北校舎と南校舎の間に一本の枯れた木が生えており、何の花を咲かせるのかと思いきや、春夏秋冬枯れたまま静かに佇んでいるのである。
担任教師が勢いよく扉を開け、教室に入ってきた。
「どうした、高崎。部活はもういいのか?」
「はい、今日の活動は新入生オリエンテーションだけでしたから。それより先生、あの木、ついに葉も生えませんでしたが、死んでるんじゃないですか?」
「あれかぁ。校長先生曰く、ちゃんと生きているそうだぞ。人の心を映した花が咲くとかなんとか…訳のわからんことを言っておられた」
「さいですか」
先生は、帰る時は窓閉めてけよとだけ言って去っていった。
ジャージ姿から察するに顧問のテニス部に向かうようだった。
そこにあるだろう青春というものを考えながら、俺は窓を閉めた。
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