ヒステリック姉さん

「キキ、キエェェェェッ!」

 けたたましい猿叫を上げるのは、近所に住む通称ヒステリック姉さんと呼ばれる人だ。

「植木鉢にいたテントウムシがいなくなってるねぇ!なぜ、どうして、キエェェェェェッ!」

 僕は思わず、プフッと吹き出してしまう。

 意外にも、ヒステリック姉さんに文句を言う近所の人はほとんどいない。

 それは単純に姉さんが良い人だからで、皆頭が上がらないんだ。

 姉さんはゴミ捨て場に近づくと、一つのペットボトルを拾い上げた。

「キエェェェッ!このペットボトル、ラベルもキャップもついてて洗ってないねぇ!私、洗ってくるねぇ!」

 この町の風紀を守っているのは実質姉さんなんだ。

 しばらくして、洗ったペットボトルを片手に家から出てきたかと思うと──。

「戦争してる暇があったら、ゴミでも拾うねぇ!戦車をゴミ箱にしてやるねぇ!キエェェェェェッ!」

 そう言って、姉さんは爆速で北の方に向かって走り去っていった。

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