幻の豪華客船

 いつもの仕事帰り、多坂港を横目にヤシの木に沿うようにして歩いていると、一隻の旅客船が気になった。

 というのも、普段見かけるサニーふれあ号ではなかったからだ。

 あそこにはいつもサニーふれあ号が停泊しているはずだ。

 その船に近づいてみることにした。


 船体に船名らしき文字が刻まれているが、知らない言語だ。

 船から伸びたタラップの下に立つ優美な雰囲気の男に声を掛ける。

「どこの船だ?どこへ行く?」

「申し訳ありませんが、"ここ"ではお答えできません」

 聞くと、片道料金と謎の言語の同意書にサインした乗客にだけ教えることが許されているらしい。

 乗りかかった船だ、よし──。


 船内は豪華絢爛といった様子で、俺は当初の目的を忘れてバカンスを楽しんでいた。

 出立して2週間もした頃、船首のデッキで寛いでいると、最初に話した男が寄ってきて言った。

「お客様、ご覧ください。あちらが終着地、ムー大陸でございます」

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