傘と桜

 いつかの雨の日、雨と共に散る桜の下で、傘を持ち隣を歩く彼が言いました。

「雨が降り続けてしまえば、雨に圧されて桜はすぐに散ってしまうだろう、それほどに儚く感じるのだ。だから私は、傘になって桜を守ってやらねばと思う。桜子はどう思うかね?」

「私は──。」


 それは突然のことでした。

 夫と一緒に銀行を訪れた時、順番が回ってきたため窓口に向かおうと立ち上がった瞬間でした。

 耳をつんざくような銃声と共に、桜を守っていた傘が斃れました。

 傘を無くした桜には血の雨が降りかかります。

 それから続けて銃声が聞こえて、斃れた傘越しに撃たれた衝撃が伝わってきました。


 私が目を覚ましたのは病室でした。

 窓の外に雨が落ちていくのが見えます。

 実は、弾は傘を貫通していませんでした。

 斃れてもなお桜とその蕾を守ってくださいました。

 いつか花を咲かせる蕾のために覚悟を決めた私は、涙を払ったその手で傘を手に取りました。

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