それは草

 約10年の海外生活から帰った俺を、旧来の友人たちが夕暮れに染まる空港のロビーで出迎えてくれた。

 そのまま皆で飯を食いに行こうという話になった。

 友人の車の後部座席に座ると、長時間のフライトのせいか、うつらうつらとしてしまう。

 飯屋まで寝ていろと言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。

 まどろむ意識の中に、時折友人たちの他愛もない会話の端が聞こえてくる。

 少し気になる言葉が聞こえた。

「それは草──」

 草?草の話をしているのか、相変わらず変な奴らだと思ったが、不思議とそれが日本に帰ってきたことを実感させてくれた。


 居酒屋の席で海外での話を聞かせていると、またその言葉が聞こえた。

「それは草生える」

 草が...生える...だと?

 一体どこに生えるというのだ、お前の頭頂部か?

 そもそも何の草だ、一年草か、多年草か、それとも──。


 二言目にカビが生える前にと、俺はまた海を渡ることにした。

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