桜林

 桜の林と書いて「おうりん」と呼ばれる桜の群生地があるそうです。

 それはそれは見事な桜が咲き、天から地まで桜色に染め上げるそうです。

 それほどなら、桜の名所として知られているはずですが、不思議なことに何処にあるのか誰も知らないようです。


 いつもの朝、いつものように通勤のためにハンドルを握っていました。

 しかし、気付くと私は見知らぬ土地に立っていました。

 目の前では幾千もの桜が景色を支配し、私を手招いているように感じました。

 直感で、これが桜林だと確信しました。

 いつの間にか桜林の中を歩いていました。

 後ろを振り返ると、桜の花弁が嵐のごとく散っていて、引き返してはいけないような気がしました。

 花弁の先に、昔飼っていた犬のポン助によく似た犬の後ろ姿が見えました。

「待って」

 私の声が聞こえてか聞こえずか、林の向こうの真っ白へ姿を消してしまいました。

 後を追って、私も真っ白の中へ踏み出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る