父の書

 これまでずっと目標にしてきた父が死んだ。

 父は書道家で、俺もその背中を追って書道家になった。

 これまでずっと父の横で肩を並べられるようにと、努力を惜しまなかった。

 ついぞその時は来なかった──そう思っていた。

 葬式の後、父が残した最後の書を母が持ってきた。

「これを清純にと預かっていたわ。」

 その書を見て、下手だと思った。

 その時、いつの間にか父を追い越していたんだと悟った。

 他の書を見ても、それが確信に変わるだけだった。

 目標を失った俺は、書けなくなっていた。

 しばらくして、妻との間に息子を授かった。

 初めて我が子の顔を見た時、あの書に残された思いが分かった気がした。

 そして、俺はまだ父を追い越してなんかいなかったと気づいた。

 前を向くと父の背中が見えた。

 ありがとう。

 父がしてくれたように俺もまたそうしよう。

 俺は再び筆を持つ。

「継志」

 それが息子の名で、父の残した思いで、俺の思い。

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