隔壁に酔う

 僕は、南の港町で生を受け、物心ついた頃には、父の漁に伴して波に揺られることを繰り返しては笑っていた。

 それが今は国の中枢で働く人間にまで成長した。

 分からないものだ。


 ある時、船の上で父に聞いた。

 あの無限に続く壁は何なのかと。

 父は一言、俺にも分からんと答えた。


 昔、この国は完全独立国家を目指し、あの無機質で真っ白な巨壁を築き上げた。

 今では度が過ぎた国境線と観光名所としての役割を担っている。

 壁画や落書き、完全独立化時代の国民の反感が並べられたそれは、人を集めた。

 遠くでは白いが、近づくと徐々に賑わう様は面白くてオススメだ。


 万作の中で、僕の心を掴んで離さない一つの壁画がある。

 壁に上ろうとする数多の人間がもがき、落ち、苦しみ、朽ち、沈む、そんな姿が描かれたものだ。

 実は、あの壁画を残したくて、僕が壁の観光資源化を提案したんだ。


 それに、完全独立化を成すには、壁は不可欠だしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る