蝋の間に

 教室を出てすぐ、渡り廊下を進んだ先の階段を駆け上がると、左手に見える家庭科室、の少し手前にある消火栓。

 その赤い扉を開くと、そこには教室大の部屋が広がっている。

 その部屋は窓も照明もなく暗い。

 部屋の真ん中で、ふわりと暖かい蝋の炎が揺れている。

 その炎を見て、先に来ているであろう人に向かって声をかける。

「部長、今日も早いですね。」

「あら、後輩君。ご機嫌よう。」

 そう言った部長の姿はほとんど見えない。

 向かいのソファに座っても、辛うじて分かるのは、うちの高校の女生徒用の制服を着ているという事だけで、顔も見えない。

 実は部長が部長であること以外は何も知らないのだが、何故か居心地が良くて毎日足を運んでしまう。

 彼女がオレの話を楽しみに待っているからだろうか。

 今日もまた今日の話を届けよう。

 彼のこと、彼女のこと、アイツのこと、たくさんある。

 蝋の間に紡ぐように語り始める。

「今日は──。」

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