寒ブリすとーきんぐ

 寒空の下、俺は行きつけの寿司屋に向かっていた。

 俺のお気に入りは、姫竹の天ぷらにぎりで、旬の魚と茶碗蒸しと...考えるだけで、たまらない。


 店の暖簾を潜ると、すぐにカウンター席に案内された。

 カウンターの向こうでは、食材が丁寧に捌かれ寿司になっていく。

 女性の方もいて、見事に仕事をこなしている。

 今の時代、珍しくもないだろう。


 ふと、5年前に付き合っていた彼女を思い出す。

 俺の方から別れを告げた。

 よくある性格の不一致ってやつだ。


 だが、彼女は納得していなかった。

 別れた後も、執拗に俺に接触しようと試みてきた。

 徐々にエスカレートしていき、耐えられなくなった俺は法で対抗した。


 不意に、元気な女性の声がした。


 「寒ブリ、おまちっ」


 俺は待ちわびていた寿司を手に取る。


 違和感。女性店員が俺の前から動こうとしない。

 ふっと彼女の顔を見た。


 彼女はこう言った。


 「お久しブリっ」

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