第6章 はじまりの場所

第1話 あの場所へ

葵ちゃんとの一件があってから、私は仕事に没頭してなるべく余計なことを考えないよう、忙しい日々を送っていた。


葵ちゃんから遊びの誘いはくるけれど、とてもじゃないけど、葵ちゃんと遊ぶ気持ちになれない。


(少しは反省したらいいんだ)


何も言わないで無視している行為を、そうやって正当化する自分にうんざりする。でも、会ったらまた流されそうな気がして、私はひたすら仕事に逃げ続けた。


そんなある日、篝さんから連絡が来た。


「もしよければ、僕の実家の村に、行ってみませんか?」


突然の誘いに驚く私。でも、私の心はその提案に惹かれていた。なぜなら。


「私が事故にあった時、村の皆さんが助けてくださったんですよね?」

「ええ。みんなちとせのことを今でもおぼえていますよ。子供がほとんどいない村でしたから、ずっと僕の後をついて歩くちとせが、可愛くて仕方なかったんですよ。東京で再開したと伝えたら、ぜひ連れてきてくれとせがまれたんです」

「そうだったんですね……」


思い出せないけれど、なぜか胸の奥が熱くなる。私の知らない私をおぼえていてくれて、会いたいと言ってくれる人達に、私もとても会いたくなっていた。


「何もないところですけど、たまには何もせずのんびり過ごすのもいいと思いますよ。どうでしょう?」

「……じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」

「ええ、ぜひ。村のみんなも喜びますよ」


そうして、私は篝さんとともに、彼の実家の村へ行く事になった。


お互いのスケジュール調整もあり、日程が決まるまで時間がかかってしまったが、ようやくその日が決まった。

それは偶然にも、私が事故に遭ったのと同じ、夏の初めだった。


篝さんの実家へは、新幹線と在来線を乗り継ぎ、そこから車で1時間ほどの場所だそうで、すでに切符の手配も済ませたと連絡をもらってしまった。

せめて自分の分の旅費は負担しますと伝えたけれど、固辞されてしまうんだろうな……。ネットで調べた運賃分の金額を、綺麗な封筒にしまいながら、何とか受け取ってもらわなきゃ……と決意を固める。


一応、お兄ちゃんにだけは篝さんの実家へ行くという事を報告した。

一瞬嫌そうな顔をしたお兄ちゃんだったけど、何も言わずに財布からお金を出し、私の手に押し付けてきた。


「これでちゃんとした土産買ってけ」

「うん……」

「葵には言ったのか?」

「あ……うん……まあね」


思わず嘘をついてしまう。でも、お兄ちゃんはそれ以外追求してくることもなく、私はほっとした。


そして、先だと思っていた出発の日は、あっという間に訪れた。


期待と緊張に包まれながら、私は待ち合わせの東京駅へと向かった。

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