第10話 親愛の

目が開いて、私は、自分が寝てしまっていた事に気づいた。

横を見ると、なぜかメイクばっちりの葵ちゃんが、私が起きた事にも気づかず小説を読んでいた。

……そうだ、私、葵ちゃんの部屋にいたんだっけ。


「葵ちゃん……」


葵ちゃんは、私の声に顔を上げ、こちらを向いた。


「あ……やっと起きた」


そう言って、優しく笑う。


「……ベッド借りちゃって、ごめんね」

「ううん、いいわよ。アタシが無理させちゃったのが悪いんだから……」


私は、急にあれこれと記憶が蘇り、恥ずかしさに布団を頭までかぶる。


「……もう恥ずかしくてここから出られない」

「そんなこと言わないでよ……ほら、今は葵ちゃんだから!安心して出ておいで!」

「え……そのためにちゃんとメイクしたの……?でも無理……布団かぶったまま帰る……」

「もう何もしないから!ね?約束するから!もし破ったら、好きなだけ殴っていいから!」

「……それ、まるで破る可能性あるみたいな言い方」

「ちっ、違うわよ!殴られたくないから破らないって!もう……出てこないなら無理矢理引き剥がしてチューするわよ!」


私は飛び起きると、布団を葵ちゃんめがけて投げつけ、部屋の隅に逃げた。


「はい出ましたから!だからなし!それだけはなし!」

「もう!そこまで言われると逆に傷つくじゃない……」


私が投げつけた布団から出ながら、葵ちゃんは悲しそうな顔をして言う。


「……そんな顔したってほだされないんだから」

「ちとせさん……葵くんには大人しいのに、葵ちゃんには厳しくない……?」

「だって、慣れてないんだもん、葵くんの方は……」


初めて会った頃はまだ普通の男の子だった(それでも可愛かったけど)。でも、気づけばすっかり女の子っぽくなってしまった。


「じゃあ、ちとせがいいって言うまでは葵ちゃんでいるから、もうちょっと近くにおいで」


そうやって手招きする葵ちゃん。でも私の中には不信感がたっぷり詰まっている。


「はじめてだったんだから……」


私はぼそっと呟く。葵ちゃんはしばらく考え込んでいたけど、こう返してきた。


「親愛のキスってことで、ノーカウントでよくない?」

「……納得いくような、いかないような」

「恋人同士なんて、あんなんじゃ済まされないんだから。ま、ちとせにはわかんないでしょうけど?」


妙に上から目線の発言に、私はムッとしてしまう。


「どうせ私は何にも知りませんよーだ!もういいよ!あれは家族としてのって事だもんね!それで解決!」


正直言うと、もうこの話題をやめたくなっていた。

ショックだったのに、決して嫌じゃなかった自分がいる事を、認めたくなかった。

だから、葵ちゃんを拒否しきれない。このままだとまた同じ事になってしまいそうだったから。


「ふふふ、やっぱりちとせはかわいい。……もっと先に進んでもいいって思ったら、いつでも言ってね」

「いいっ!言わないから!!!」


反省した様子のない葵ちゃんに、私は絶叫した。

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