第7話 恋バナ

結局私は、食べたものの味がしなかったくらいにはショックを引きずっていた。


葵ちゃんが一方的に話すのを、相槌を打つだけのまま、時間が過ぎた。


恋愛に身を置く自分を想像すると、拒否反応で胃がきゅっと痛む。

でも、なぜなのか分からない。

今までも、誰かの恋の話を聞いていても、他人事のようにしか考えてなかった。

どうせ私は、そうやって誰かに愛される存在じゃないのだから、と思い込んでいた。


「眉間に皺寄ってる。可愛い顔が台無し」


食後のコーヒーを飲んでいた葵ちゃんが、私の眉間を突いてくる。

私は自分の眉間をさすりながら言う。


「可愛い人に言われても、説得力ないよ……」

「アタシの可愛いは作れる可愛いであって、あんたの可愛いは天然由来よ。少しは自信持ちなさい」


そうは言われても、自分の顔を可愛いだなんて思えた事がない。でもこれ以上反論すると、どんな反撃を食らうか分からない。

私は話題を変えることにした。


「ねえ、葵ちゃん……」

「なによ」

「……恋愛って、しなきゃいけないものなの?」

「……そう言われると……そうね」


葵ちゃんはそのまましばらく考え込んでしまう。変なこと聞いてしまったのだろうか。


「……無理にするもんじゃないとは思う。でも……ちとせはそれを言い訳にして逃げようとしてる。アタシにはそうとしか見えない」


言い訳……確かにそうなのかもしれない。


「告白されて、生理的に受け付けないってわけじゃなければ、とりあえず付き合ってみるくらいの軽い気持ちでいいのよ。そこから先に進むかは、そのあと決めたっていいんだし」

「そ、そんな軽い考えでいいの?」

「あったりまえじゃない!結婚するわけじゃないのよ?付き合ったって、合わないと思ったらすぐ別れていいんだから」


付き合うという事を、他の人がそんなに軽く考えているとは思っていなかった。そもそも、こういった話題を誰かと話す事自体してこなかった。


「アタシは、目があった時に、いい意味でドキドキしたら、もう付き合ってもいいって思うもの。ま、長続きはしなかったけどね」

「そ……そうなんだ」


てっきり、お兄ちゃん一筋だと思っていたから、意外でびっくりしてしまった。

急に葵ちゃんが、私より何歳も年上の立派な大人に見えてきた……。


「でも、私なんか、そういう対象になることがまずない……」

「あ、またそういう事を言う。それは、あんたがそういう態度だから、誰も踏み込んでこないだけ。ヤレる可能性のない女に時間かけたって仕方ないでしょ」


や……やれる?生々しい単語に、私は血の気が引いてしまった。


「ど……どうせ私は魅力ないし、他の女の人の方がきっといいと思うし……そう思われて当たり前でしょ」


そう言うと、葵ちゃんは腕を組んで、やれやれといった様子を見せる。


「わかった、そこまで言うならアタシにも考えがある。とりあえず、店出ましょ」


葵ちゃんはそう言いながら、伝票を手に取って立ち上がる。


「ま、待って葵ちゃん!」


私は慌てて葵ちゃんの後を追った。

お会計を済ませようとする葵ちゃんとレジの間に無理矢理割り込んで、なんとか支払いを済ませる事ができた。


店の外に出た私と葵ちゃん。


「さ、行くわよ」


葵ちゃんは私の手を握ると、歩き出す。


「え、どこに?」


慌てて聞く私。葵ちゃんは足を止めて、私を振り返ると、こう答えた。


「アタシん家よ」

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