第2話 いちばん大好きな

僕はちとせに、何があったかを尋ねたが、彼女はそれを聞いた瞬間、口を閉ざしてしまった。辛そうな顔をする彼女から、無理矢理に聞き出すことは可哀想で、それ以上聞くことはできなかった。

ただ、こんな小さい子がひとりでいたはずはないので、天候が回復次第村の者で彼女と一緒にいたであろう人の捜索をするよう手配した。


崖崩れが復旧するまでは、当然学校にも行けないので、僕はずっとちとせのそばにいた。

村と学校を往復するだけの毎日を送っていた僕には、どこか違う場所から来た女の子が、どうしても気になって仕方なかったのだ。


事故に関すること以外は、聞くと答えてくれたので、僕は色々とちとせに聞いた。

年齢、好きなもの、趣味、好きな授業……。

少しずつ僕に心を開いてくれるちとせが可愛くて、いつの間にか妹のように感じていた。


でも、そんな時間はいつか終わる。


ちとせを助けてから2週間後、崖崩れは復旧し、警察からの迎えが来ることになった。


僕はちとせに、もうすぐお別れだと伝えた。

その途端、ちとせは涙を流して、僕にしがみついた。


「いやだ、ずっと一緒にいる」


そう言われた瞬間、僕の胸は、どうしようもないくらいに高鳴った。


村人や家の者は、僕がこの家に生まれた長男という立場だから、僕を大切にしてくれている。それに不満はない。

両親や祖父母も、跡取りとして大切にはしてくれる。

学校の友人は、彼らの親から何か言われているのか、あまり積極的に関わってはこない。僕に対して何かしでかしたとわかれば、この地域に住んでは行けない。


でも、ちとせだけは違う。ただ僕自身を好いてくれている。

それは、理性が吹き飛びそうなくらいの喜びだった。


「僕も、ずっと一緒にいたいよ」


そう言うと、ちとせは満面の笑顔を見せた。

一緒にいられると思ったのだろう。


「……でも、ちとせのおうちはここじゃない。だから、もっと大きくなって、ちとせがひとりで来れるくらい大きくなったら、いつでもおいで。僕はずっと待っているから」


そう言って、強くちとせを抱きしめた。

ちとせは、体を震わせて泣いている。

いつまでそうしていただろう。僕の肩に、彼女の涙の暖かさが広がる。


「手紙をくれるかい?そうしたら、すぐに返事を書くよ」

「……うん、たくさん書く。すぐに大きくなって、ここに戻ってくるから、私のこと、忘れないで」


僕の背に手を回すちとせ。でも、まだ小さくて、腕が回し切れない。そんなところも、愛おしくてたまらなかった。


「忘れないよ。僕のいちばん大好きな女の子だから」

「……うん、私も、だいすきだよ」


そうして、僕たちは別れた。

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