第3章 愛をなくした日

第1話 出会い

それは、学校から送迎の車で帰宅し、家に入ろうとしてた時だった。


聞いた事もない衝撃音が響き、何事かと辺りを見回した。


僕はすぐに、鞄を家の中に放り投げると、車のそばにいた運転手に言った。


「僕は様子を見てくる!祖父様に伝えておいて!」

「わかりました、日が落ちる前にはお戻り下さい」


頷いて、僕は音のした方向に走り出した。

何かが燃えているのか、煙が立ち込めている。それを目印にして向かった僕は、女の子が倒れているのを見つけた。


頭から少し出血していて、顔が真っ青で、下手に動かすと危険に見える。

声をかけると、少し反応はあるけれど、目は開かない。


僕はすぐに携帯で家に連絡を入れ、電話に出た使用人に状況と今いる場所を説明する。

医者を呼ぶのと、人手を何人か向かわせますとの返答に、頼むと言って携帯を切った。


「すぐ助けがくるから、もうしばらくの辛抱だよ」


女の子にそう声をかけると、彼女は手をこちらにのばしてきた。


「お母さん……お母さん……こわいよ……」


そう小さい声で言うと、開かないままの目から涙がこぼれ落ちた。

僕はとっさに、女の子の手を両手で握る。


「大丈夫だよ、ここにいるから……」


そう言うと、安心したような表情になり、その腕の力が抜けていった。

その姿があまりにも可哀想で、僕はずっと、大丈夫だよ……と励ますことしかできなかった。


***


村の者が何人か、担架がわりになるものを持って来てくれたおかげで、女の子を無事に家まで連れてくることができた。


駆けつけた医師からは、今のところ異常はなく、いくつかある傷も深くないので問題ないだろうと言われた。

ただ、なるべく早く設備の整ったところで診せた方がいいとのことだった。


だが……その直後、天気が急に崩れ、大雨が村を襲った。

そのせいで、山の麓の町まで行くための唯一の道路が、崖崩れで通行不可となってしまった。


女の子の容体が急変したら打つ手がない……と心配でたまらなかったが、その心配は杞憂に終わった。

家に運んでから2日目の夕方、ようやく女の子は目を覚ました。


彼女を看病していた使用人から、女の子が目覚めたと聞いた僕は、すぐに彼女の元へ向かった。


布団から上半身を起こしたまま、女の子はぼーっとした表情でこちらを見た。


「よかった、目が覚めたんだね。痛いところはないかい?」


僕の問いに、女の子は首を横に振った。

僕はほっとして、彼女の布団の横に座る。


「君が怪我をして森の中に倒れてたのを、ここに運んだんだ。名前は言える?」


女の子はしばらく考えて、小さく言った。


「ちとせ……さとうちとせ……」


それが、僕とちとせとの最初の出会いだった。

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